尚斗と誕生日とプレゼント

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 明日──十月七日は、俺の誕生日だ。  けれど、俺の中で誕生日といえば、決して嬉しいものでも、ましてや楽しいものでもなかった。  五歳で母親を亡くした──その亡くした日が、自分の誕生日だったのだ。  生まれた日と、大切な人の命日が同じ日で、そんな曰く付きの日を──どうして好きになれよう。  母親を喪ってから数年は、誕生日なんて来なければいいとさえ思っていたくらいなのだ。祖父母はそんな俺の気持ちを汲んでか、「誕生日のお祝いをしよう」と言ったことは一度もなかった。  俺はというと、誕生日を祝うより、母の元に墓参することを選ぶような子供だった。無理をしなくていいと──何度祖父母に言われたかしれない。  それでも──そこに行けば母に会えるような、そんな気がしていた。  肉体を失くし、魂を喪った人間に──会うことなど、叶わないというのに。  学校に通うようになっても毎年この日だけは墓参を優先している。詳細ではないにしろ月冴たちにも予め〝明日は休む〟と話していたから、過ぎ去ってしまう前にどうにか──と、そんなところだろう。 「はい、これ。オレとリョウからね」  少しばかりの感傷に浸っていると、昭彦に両腕を引っ張られ、そのままの状態で亮平から抱えてようやく持てるくらいのサイズ感があるものを持たされる。簡易的なビニールにとりあえず押し込みましたといわんばかりの質素なラッピング。持った感じは軽く、まるでぬいぐるみを持たされているようだ。 「なにこれ」 「〝人をダメにするかもしれないクッションミニ〟のアニマルバージョンで、ネコ。いまさ、ネットですげぇ流行ってんの。このサイズならお前の部屋でも置けるだろ? お前の部屋どんなか見たことねぇけど!」  亮平が軽口を叩く。渡された物の商品名を聞いて思わず顔を顰め、 「え、なに。お前ら俺をダメにしたいの?」  と不服そうに吐き出せば、 「ダメにする、じゃなくて。ダメにするかも、だから。まぁすでに月冴いないと結構ダメダメな気もするけど」  そう返す昭彦が目を細めて笑う。ただでさえ目が細いのに、朔夜がああ言いたくなる気持ちが少しわかるような気がした。 「アキ、切り返しが容赦ない」 「ダメにしたいっていうか、あまり寝てなさそうだから。ちょっとでも早く寝るように、みたいな?」  亮平の茶々もなんのその、マイペースに語る昭彦を見て溜息が漏れた。本当にこいつらはいつでも言いたい放題でいっそ清々しい。睡眠を促す効果がある代物なのか、後でこっそり調べてやろうと思う。
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