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「先輩がちゃんと選んでたんだけど、店員さんに〝シュガーはハートのしかないです〟って言われちゃって。レジまで持って行きにくそうにしてたから、シュガーだけ俺がレジまで持ってってあげたんだ。そしたら〝なにか礼をさせてくれ〟って言うから。〝考えときます〟って言ったのね」
「律儀か」
ガコン──みっつ目の缶が落ちる音が響く。俺の言い草に、月冴が小さく笑った。
「誕生日前日の、日付が変わる前に俺から呼び出されたら察せそうだし、サプライズにならないでしょ? たまたま昼休みに志賀先輩に会ってシフトを教えてもらったから、昭彦たちとバイト先にお邪魔して、秋月先輩にお願いしてきたってワケ。自分たちでやれって言われたけど先輩が適任だと思ったし〝お礼がまだですよ?〟って言ったら、ちゃんと引き受けてくれた。秋月先輩って優しいよね」
「……案外いい性格してるよな、お前」
月冴が落ちてきた缶を拾い終わるのを見届けてから、最後の一本を買うためにボタンを押した。
これですべて真相解明された。
朔夜が連絡を寄越した理由も、迎えに来たことも、全部。
抱えていた違和感はすっかり消え去り、晴れやかな気持ちだけが残る。
「それにしても、ずいぶん懐いたね」
「……誰が?」
「もちろん尚斗が、秋月先輩に。〝朔夜さん〟だなんて親密そうな呼び方、ちょっと妬けちゃうなぁー」
最後の缶を回収した月冴は、細い両腕いっぱいの缶をぎゅっと胸元に引き寄せて、下から覗き込むようにして俺を見上げた。
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