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✕✕年後 10月6日
日付が変わるまで、あと1時間。そんな時分に、一通のメッセージが届いた。
『まだ起きてるか』
その簡素な一文の送り主は朔夜だった。
日々夜遅くまでアルバイトをしている朔夜が、メッセージとはいえ、連絡を寄越してくるのは相当に稀である。
ベッドにうつ伏せ状態でいたのを上体を起こして、読みさしの小説を枕の脇に避け、返信を打ち込む。
「絶賛読書中、っと」
簡素なメッセージに手の込んだ返信は不要だ。こちらも簡素な一文を送る。送ったメッセージウインドウの横にチェックがついた次の瞬間、手にしていたスマホが震えた。
よくよくディスプレイを見れば着信画面が表示されている。相手はいましがたまでやり取りをしていた朔夜である。
「……はい」
『……おぅ』
ぶっきらぼうな声。
人によっては機嫌が悪そうだと受け取りそうな声色も、朔夜にとっての〝普通〟だ。
「珍しいですね、電話なんて」
『早ぇからな、この方が。……お前、いま家から出られるか?』
「……いまから、ですか?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
なにせ時間が時間だ、出られないわけではないが、あまりに唐突な誘いに面食らっていると、
『家の前にいっから、出てこいよ』
朔夜から追い打ちとも言うべき言葉がかけられた。
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