8人が本棚に入れています
本棚に追加
「──と」
「……と?」
朔夜が含んだように言葉を切った。
少し視線を泳がせた朔夜を見上げ、首を傾げながら催促すれば、僅かに顔を顰めた朔夜が口を開く。
「……月冴」
「……月冴に?」
一番聞き慣れた名前を聞かされ、俺は目を丸く見開いた。
朔夜と月冴は面識こそあれど、そこまで親しくしていたようには見えなかった。俺という存在の手前か、単に関わる機会が限られていただけか。
いずれにしても、俺を介さず月冴が直に朔夜へ頼み事をするのは多少不自然のような気がしたのだ。
「なんで月冴が?」
「本人に聞け。オレは普通にバイトしてただけだ」
「舗装工事の?」
「そっちじゃねぇ」
いつの間に取り出したのか朔夜は煙草を咥え、慣れた手つきで火をつける。
すぅと一息吸って長息と共に吐き出せば、白い煙が緩やかな線を描きながら宙に昇っていった。
「あー……志賀さんの従兄弟がやってるとかいう? 新しく始めたほう」
「人手が足りねぇ時だけな」
「月冴、来たんだ?」
「どーせ龍のヤツが勝手に喋ったんだろ、アイツはお喋りだから」
俺の質問に、朔夜は煙草を吸いながら律儀に一つ一つ返事をしていった。
朔夜の口から龍之介の名前が出たところで、そっち繋がりか、と引っかかっていたものがするりと解消する。
朔夜よりも龍之介のほうが社交性に富んでいる。
ならば同じ性質を持った月冴とも相性はいいはずだ。面白半分に朔夜のシフトを教えていたのだとしたら。〝せっかくだし顔を出してみようか〟──彼らならそうなるのも頷ける。
「部活の帰りにどっか寄るって言ってたけどそういうこと……」
月冴が部活の日は別々に帰ることがほとんどだが、いつも彼が下校する時間帯、少し落ち着けと思わず言いたくなるほど、メッセージを寄越してくる。
それが今日に限ってなかった。同じ部活仲間の亮平や昭彦と寄り道をしていたのなら、そちらを優先して然るべき。月冴の性格を考えても妥当な線だろう。なるほど、これで腑に落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!