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「呼び出しくらいテメェらでやれっつったが……適任だとか言われて」
「断れなかったんだ? 優しいですもんね、秋月先輩」
朔夜の台詞を聞いた瞬間、口元が微笑ってしまった。
他人との接触を必要最低限にとどめようとしてもしきれないのは、彼の心根が優しい、なによりの証拠だ。本人は──決して認めたがらないだろうが。
「おい……思ってもねぇこと言うんじゃねぇ。それにその〝秋月先輩〟ってのやめろ」
すいぶんと短くなった煙草を、ボトムの尻ポケットから取り出した携帯灰皿を開いてからつっこみ、蓋を閉じて再び尻ポケットにねじ込むと、朔夜は新しい煙草を取り出した。
「だって先輩じゃん」
「お前に言われるとムズムズすんだよ……落ち着かねぇ」
困惑顔というのは、いまの朔夜のような顔をいうのだろうと思う。居心地悪そうに煙草に火をつけると、先程と同じように一息深く吸って、長息と共に宙へ向かって吐き出した。
「……じゃあ〝秋月さん?〟」
「それもやめろ」
「我が儘」
どう呼べというのか。学年一つしか違わないとはいえ、仮にも朔夜は先輩だ。クラスメイトとは違うのだ、そうそう呼び捨てする気にはなれない。
「朔夜でいい」
「呼び捨て苦手なんですよ」
「月冴のことは呼び捨てだろ」
「アイツは同級生だし、恋人……だし?」
「一年も二年も大差ねぇだろ」
「アンタ、たまにすげぇ強引だよな。じゃあ……〝朔夜さん〟でどう? 仮にも年上を呼び捨てにするのは趣味じゃない」
「仮は余計だろ」
ぐしゃぐしゃと髪をかき回される。朔夜の手に移った煙草の残り香がふわりと鼻先を掠めた。
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