8人が本棚に入れています
本棚に追加
「〝Happy〟って……知ってたの? 俺の──」
「たまたまだ。……似合わねぇことしてると思ってんだろ?」
「まぁ……ちょっとだけ?」
半笑いになりながら、人差し指と親指の間を狭めて隙間を作る仕草をすれば、朔夜の眉が釣り上がる。
「……やっぱ返せ」
「ヤですよ。もう俺のモンです」
取り上げられそうになるのを回避して素早くリボンを解き、包装紙のテープを剥がす。極力破かないよう丁寧に。
中に入っていたのは薄緑地に包装紙と同じ猫のプリントがされた小さめのブリキ缶で、蓋には筆記体で〝Coffee〟と書いてあった。一緒に包まれていた試験管型の瓶にはハート型のコーヒーシュガーが目一杯詰まっている。
「っは、カワイー……」
「それしかねぇって言われたんだよ……クソッ、笑うな」
「笑ってないですって。ありがとうございます、大事に飲みますね」
朔夜にこんな一面があったとは意外だった。緩む表情をそのままに会釈すれば、なんとも不機嫌そうな顔で頭を掻いた朔夜が、シッシと追い払うジェスチャーを取る。
「──~~ッ、オラ、さっさと行け。日付変わっちまったぞ」
朔夜自身が引き止めたことはどうやら棚上げしたようだ。半ば朔夜に追い立てられるように公園へと足を踏み入れ、月冴たちが待つという中央広場へ向かう。広い公園ではないから然程時間をかけずに辿り着くと、姿に気づいた昭彦が片手を上げた。
「よっ、尚斗。おばんー」
「ずいぶんな時間だけどな」
「よかったー、寝てなくて」
そう言ったのは亮平だ。夜更しが俺の常だから、日付が変わる前に寝てることなんて有り得ない。
「遅くに呼び出してごめんね。でも尚斗、明日は学校休むって言ってたから……どうしてもその前に渡しておきたくて」
申し訳無さそうに眉尻を下げて亮平のうしろからひょこりと顔を出したのは月冴だった。先程の朔夜の態度でなんとなく察しはついていたが、やはり〝そう〟だったようだ。
最初のコメントを投稿しよう!