おばあちゃん

1/4
前へ
/17ページ
次へ

おばあちゃん

ある日曜日。 「胡桃(くるみ)、未来(みらい)、おばあちゃんのお見舞いに行こう?」 胡桃の母親が、朝から鬱陶しいことをまた言っている。 胡桃の祖母は入院している。 もうずっと、長くーー 『Y病院は、【老人病院】だからねえ…』と母は言う。 カラダが悪くなった、少しボケた、この家で、暮らすのが難しくなった、何だかんだ理由をつけて、もう何年も、祖母はそこにいる。 末っ子のはずの母が、一番祖母を見ていた。 胡桃の父親は、胡桃が小さい頃から、祖母を疎ましそうにしていた。 祖母は、母方だ。 小さい頃はわからなかったが、父のその態度は、祖母とは血がつながってないからーーそういうことだ。 母が父の顔色を見ながら遠慮がちにしていたのをずっと見てきて、胡桃は『家族』が嫌いになっていた。こんな面倒な『結婚』なんて、なんでするんだろう?父親と母親が…仮に若い頃だけにしろ、愛し合ったなんて1ミリも思えない。 こんなのーー『しがらみ』なんていらないんじゃない? 母は洗濯や、差し入れや、話し相手や、お見舞いと称してせっせと病院に通う。 『育ててもらったし、おばあちゃんには、返せないほど恩があるから』と言う。 高校1年生の胡桃は、その病院に一緒に行くのが大嫌いだった。 薬や、老人の体臭みたいな、空気の悪い、ヘンな臭い。 右を見ても左を見ても具合の悪そうな人たち。 愛想もくそもなく、事務的に忙しそうで、意地悪そうな看護師と介護士とーー表面的な笑顔が胡散臭い担当者。 病室で、唸り声をあげる人。 ずっと笑ってる人、怒ってる人。 暴れる、叫ぶ、歌う人。 どこをみているのか、ボーっとして生気のない、人。 殆どみんなが、同じに見える。 「…私は行かない。 今日、篤史(あつし)と約束があるから」 母はため息をつく。 「胡桃、1週間前に、『今度の日曜日は行こう』って、母さん言ったでしょう? そんなことばかり言って、ここのところあなた、ずっと行ってないじゃない… 初孫のあなたが生まれて、どれだけおばあちゃんが喜んだか… 小さい頃、あなたがどれだけ可愛がられて、お世話してもらったか…」 「そんなの覚えてないし、知らないよ。 とにかく、私は行かないから」 「おばあちゃん、あなたが行くときっと喜ぶのに…」 「行かないって言ったら、行かない」 胡桃は睨むように、冷たく言った。 「もう…!1人で大きくなった!、みたいな顔して…」 「お姉ちゃん…」 小学6年の弟の未来が悲しそうな顔をする。胡桃はそれにイラついた。 結局母は、未来だけを連れて病院へ行った。 未来は残念そうに、出る直前まで、チラチラ胡桃を見ていた。 父親とは、朝からろくに会話もなく。父はすぐにパチンコに出かけてしまった。いつものことだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加