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おばあちゃん
ある日曜日。
「胡桃(くるみ)、未来(みらい)、おばあちゃんのお見舞いに行こう?」
胡桃の母親が、朝から鬱陶しいことをまた言っている。
胡桃の祖母は入院している。
もうずっと、長くーー
『Y病院は、【老人病院】だからねえ…』と母は言う。
カラダが悪くなった、少しボケた、この家で、暮らすのが難しくなった、何だかんだ理由をつけて、もう何年も、祖母はそこにいる。
末っ子のはずの母が、一番祖母を見ていた。
胡桃の父親は、胡桃が小さい頃から、祖母を疎ましそうにしていた。
祖母は、母方だ。
小さい頃はわからなかったが、父のその態度は、祖母とは血がつながってないからーーそういうことだ。
母が父の顔色を見ながら遠慮がちにしていたのをずっと見てきて、胡桃は『家族』が嫌いになっていた。こんな面倒な『結婚』なんて、なんでするんだろう?父親と母親が…仮に若い頃だけにしろ、愛し合ったなんて1ミリも思えない。
こんなのーー『しがらみ』なんていらないんじゃない?
母は洗濯や、差し入れや、話し相手や、お見舞いと称してせっせと病院に通う。
『育ててもらったし、おばあちゃんには、返せないほど恩があるから』と言う。
高校1年生の胡桃は、その病院に一緒に行くのが大嫌いだった。
薬や、老人の体臭みたいな、空気の悪い、ヘンな臭い。
右を見ても左を見ても具合の悪そうな人たち。
愛想もくそもなく、事務的に忙しそうで、意地悪そうな看護師と介護士とーー表面的な笑顔が胡散臭い担当者。
病室で、唸り声をあげる人。
ずっと笑ってる人、怒ってる人。
暴れる、叫ぶ、歌う人。
どこをみているのか、ボーっとして生気のない、人。
殆どみんなが、同じに見える。
「…私は行かない。
今日、篤史(あつし)と約束があるから」
母はため息をつく。
「胡桃、1週間前に、『今度の日曜日は行こう』って、母さん言ったでしょう?
そんなことばかり言って、ここのところあなた、ずっと行ってないじゃない…
初孫のあなたが生まれて、どれだけおばあちゃんが喜んだか…
小さい頃、あなたがどれだけ可愛がられて、お世話してもらったか…」
「そんなの覚えてないし、知らないよ。
とにかく、私は行かないから」
「おばあちゃん、あなたが行くときっと喜ぶのに…」
「行かないって言ったら、行かない」
胡桃は睨むように、冷たく言った。
「もう…!1人で大きくなった!、みたいな顔して…」
「お姉ちゃん…」
小学6年の弟の未来が悲しそうな顔をする。胡桃はそれにイラついた。
結局母は、未来だけを連れて病院へ行った。
未来は残念そうに、出る直前まで、チラチラ胡桃を見ていた。
父親とは、朝からろくに会話もなく。父はすぐにパチンコに出かけてしまった。いつものことだ。
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