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優しい人
「さあ、どうぞ」
胡桃の家でーー篤史と胡桃はタオルで髪を拭いていた。
『いくら春雨でも濡れたままでは風邪を引きます!』と譲らない母親に促され、篤史も胡桃も順番にお風呂に入らされた。
篤史には父親用の新品の肌着とパンツと部屋着が渡された。
来ていた服は、洗濯機で回っている。
リビングに通され、温かい飲み物を飲むと、篤史も胡桃も、やっと少し、ホッとした。
「さあ…それで?」
胡桃の母親は篤史と胡桃の対面に座り、真剣な目で2人を交互に見つめた。
「ケンカなの?」
篤史と胡桃は目を合わせた。
篤史がおもむろに床に正座する。
「あの、すみません。ご挨拶が遅れました。自分は、篠田篤史と言います。
胡桃さんとは3か月前からお付き合いをさせていただいています」
ぺこっと頭を下げる、篤史。
「篤史さん、胡桃から聞いています。
どうぞソファに座ってください」
母親に促され、篤史は少し居心地悪そうにソファに座りなおした。
「で、胡桃?ケンカなの?」
胡桃は膝の上で手をギュッと握った。
「…ケンカじゃない。
もう別れるって言ったの」
篤史がバッと胡桃を見た。
「…なんで?」
苦しそうに、篤史は絞り出す。
「お母さんも聞きたい」
母が、腕を組んだ。
胡桃は唇を噛む。
「…
……………
………」
1分間の、静寂。
「ごめんなさい…」
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