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「こんにちは!
柿崎さんの、ご家族ですか?椅子をどうぞ!」
病院の看護師なのか介護士なのか、ニコニコ笑う若い女性スタッフが胡桃に気づいて、パイプ椅子を持ってくる。
「ありがとうございます…」
胡桃は取り敢えず座った。
ベッドサイドに寄せようと引きずったパイプ椅子が、ギーっと床にこすれる。
ーーささくれた、気持ちみたいに。
胡桃は祖母の手をそっと握った。
ーーこんなに、骨ばって、小さい手、だったっけ?
温かくて、優しくて、祖母はいつでも絶対、胡桃の味方だった。
戦後を乗り越えた、強くて、カッコいい祖母が、弱音を吐くのを胡桃は見たことはない。
祖母のしわしわの、シミだらけの、手。
一生懸命働いた、手。
家族を育てた、手。
「…おばあ、ちゃん…」
祖母はまた枯れ木みたいに黙って天井を見ている。
まるで、いつ訪れるかわからない、死ぬ時をただ待っているかのように。
まるで、残りの人生の楽しみなんて、一つもないかのように。
「…ごめん」
胡桃は小さく呟くと、祖母の手を握ったまま、ベッドの端に顔を埋めた。
とたん、あとからあとから溢れる涙は、止まることを知らず、シーツに吸い込まれていく。
『胡桃は初孫でしょう?おばあちゃんそれは喜んでね。まだあなたがお腹にいる頃、今時珍しく、さらしを一反買って、布おむつを縫ってくれたのよ』
『毎日、おばあちゃんが洗濯もしてくれて。何枚も風に揺れる布おむつは、真っ白でキレイだった。近所でも羨ましがられてね』
『運動会で、胡桃が走る時、おばあちゃん声を張り上げて応援してた。3年生の時、1度だけ1等になりそうだったのよ。でも、あなたは転んだお友達を助けて、結局6位だったの。おばあちゃん、それはあなたを誇らしく思ったらしくて、今までその話は100回ぐらい聞いたわ。私もお父さんも、叔父さんたちも、近所の人まで』
中学2年の時、学校で『自分史』を作った。
その頃もう祖母は入院していたけれど、母親から小さいことのことをたくさん聞いたのを胡桃は思い出していた。
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