優しい人

1/3
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

優しい人

「さあ、どうぞ」 胡桃の家でーー篤史と胡桃はタオルで髪を拭いていた。 『いくら春雨でも濡れたままでは風邪を引きます!』と譲らない母親に促され、篤史も胡桃も順番にお風呂に入らされた。 篤史には父親用の新品の肌着とパンツと部屋着が渡された。 来ていた服は、洗濯機で回っている。 リビングに通され、温かい飲み物を飲むと、篤史も胡桃も、やっと少し、ホッとした。 「さあ…それで?」 胡桃の母親は篤史と胡桃の対面に座り、真剣な目で2人を交互に見つめた。 「ケンカなの?」 篤史と胡桃は目を合わせた。 篤史がおもむろに床に正座する。 「あの、すみません。ご挨拶が遅れました。自分は、篠田篤史と言います。 胡桃さんとは3か月前からお付き合いをさせていただいています」 ぺこっと頭を下げる、篤史。 「篤史さん、胡桃から聞いています。 どうぞソファに座ってください」 母親に促され、篤史は少し居心地悪そうにソファに座りなおした。 「で、胡桃?ケンカなの?」 胡桃は膝の上で手をギュッと握った。 「…ケンカじゃない。 もう別れるって言ったの」 篤史がバッと胡桃を見た。 「…なんで?」 苦しそうに、篤史は絞り出す。 「お母さんも聞きたい」 母が、腕を組んだ。 胡桃は唇を噛む。 「… …………… ………」 1分間の、静寂。 「ごめんなさい…」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!