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手紙
「篤史君、わざわざありがとうね」
桜の蕾が膨らむ、3月。
祖母の49日法要。
親戚が帰った後、制服姿で訪問してくれた篤史に、胡桃の母親がお礼を言った。
篤史は卒業を控え、胡桃も春からは3年生だ。
あれから1年間、胡桃たちは何度も祖母のお見舞いに行った。
見方を変えてみると、病院のスタッフは忙しそうにはしていたけれど、患者さんのことを本当に一生懸命お世話してくれていた。
「おばあちゃん、あのさっぱりした性格通り、肺炎になってからたった3日で、きれいに逝ってしまったな…」
父が母にボソッと喋る。
母が居住まいを正して、父に向かう。
「お父さんには、お世話になりました。
兄たちがいたのに、嫁いだ身で、最期まで母のお世話をさせてもらって、感謝しています。
喪主まで引き受けてくれて、本当に、ありがとうございました」
「………寂しくなるな」
頭を下げる母に、湯呑を手にした父が、また小さく呟いた。
胡桃は父と母を見た。
見方を変えると、これまた、父と母は特に不仲ではないのだ。
伯父さんたちがいながら、祖母の世話を末っ子の母親がさせてもらえたのも、今思うと父の懐の深さだったのだろう。
「胡桃、これ」
母が一枚の封筒を胡桃に持ってきた。
「何?」
「開けたらわかるわよ」
母は優しい目をして微笑んだ。
胡桃は、隣に座る篤史と目を合わせてーー封筒を開けた。
「…!」
ブワッと…涙が溢れて、目の前が見えなくなるーー
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