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病院
胡桃は篤史に見送られ、その足で、Y病院まで電車で行った。
頭の中をぐるぐる、まわる気持ち。
幼い自分の手を引いて、毎日公園に行ってくれたのは、祖母ではなかったか。
砂場で何度も繰り返すままごとに、イヤな顔一つせず日が暮れるまで付き合ってくれたのは、祖母ではなかったか。
『胡桃ちゃん、これもお食べ』自分のお皿から一番いいおかずを一つ、いつも取り分けてくれたのは、祖母ではなかったか。
弟が生まれた後の寂しかった時、ずっとそばにいてくれたのは…?
両親から叱られて、泣きじゃくる自分をいつまでも抱きしめてくれたのは…?
叱られた時、自分のことのように悲しそうにしてたのは…
みんな、みんな、おばあちゃんだったのに…
胡桃が祖母の病院を訪れるのは、ほとんど1年ぶりだった。
受付で名前を記入して、許可証を首からかけて、手を消毒してーー祖母の病室へ向かう。
祖母の病室は、3階の西の、大部屋だ。
胡桃が着くと、帰ったのか、もう母親も弟もいなかった。
病室の入り口で一息つく。
独特の臭い。
忙しなく動くスタッフ。
意を決して、窓際の祖母のベッドに向かって足を動かす。
仕切りのカーテンをそっと開ける。祖母は、ベッドに横たわって、天井を見ていた。
「…おばあちゃん…」
ーーまた、小さくなった…
胡桃が声をかけるが、祖母は気づかない。
ベッドに近づく。
目線に入ると、祖母が視線を合わせた。
「おばあちゃん…」
「…」
目は合っているのに、祖母は何も言わなかった。
無表情で、うつろな目をして。
胡桃を見ても、反応がない。
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