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水を汲みながら、今日の出来事を思い出していた。
樹に言われなくても、自分自身が発育不良っていうのはわかっている。
なぜなら、その生き方を選択したのは、ユキ自身だったのだから……。
洗面器に溜まる水を眺めながら、水面に映る自分の牙を見る。
ーーこれも、自分のせい。
牙じゃなく八重歯。銀色の髪の毛。弱々しい外見、体も小さく、貧血持ち——ハーフとはいえ吸血鬼になりきれないコンプレックス。そして、吸血という行為のトラウマ。
ーー俺だって、人間に生まれたかった。それならきっと……。
樹は、自分が吸血鬼とは知らない——でも。
そんな発育の悪い自分を見透かされたようで、どうしようもなく腹が立った。
人間である樹が羨ましくて、中途半端な自分が不甲斐なくて。
ーーほんと最低だな、俺。あの人、関係ないのに。
ユキは一度だけ吸血の場面に出くわしたことがある。
それは、母とは別の女だった。
父は瞳孔が開き、興奮した様子で、女の首筋に尖った牙を突き刺していた。
みるみるうちに女は、精気が失われ青白くなり、ダラーンと腕も体も力が抜けて倒れ込んでしまった。
それなのに、父は牙を抜き血の付いた口を拭って「こいつも、たいしたことないな。これじゃ、もの足りない」と倒れ込む女を一瞥し、吐き捨てるように言ったのだ。
あの時の光景を思い出すと今も、全身が震えてしまう。
自分も父のような獰猛な一面があるのかもしれないと思ったら、すごく恐ろしくなったのだ。
本来であればユキも、6歳になった時に吸血方法を覚えるはずだった。
だが、あの時の光景がフラッシュバックしてしまい、自分の牙を思うように首筋に刺すことが出来なかった。
父から人間の血を吸うように強要されても、何かと理由をつけて断った。 自分は、あんな風にはなりたくはなかった。
それが、たとえ生きる上で必要だとしても……——
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