雪を融かす一匙の蜜(2)

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 自分が生きる為に見出(みいだ)した術は、首筋に牙をあて思いっきり匂いを嗅ぎ、少しだけ精気を貰うことだった。  頑なに吸血行為をしないユキを見て、父は吸血鬼として育てることを放棄してしまった。自分にとっては嬉しいことだったけれど。  それでも、精気を摂取しないと死んでしまうユキは、首筋から微量の精気を吸うのでは足りなかった。  そこで吸血鬼用非常食を勧められたのだ。  身体がどうしてもフラフラする時は、今もそれを採るようにしている。  そう、生きる為に——  だからなのか、三十歳になった今も身体の発育も良くなく、いまだに小柄で童顔。  しかも血を吸わないユキは、母の血を吸って漆黒の髪の毛へと変化した父とは違い、生まれた時と同じ銀髪のままだった。  吸血鬼として役に立たないこの牙。  まだ誰の血も吸ったことが無く、八重歯くらいにしか育たず、この歯で人の肌を刺せるとは到底思えない。  ーー結局、人間としても吸血鬼としても中途半端だ。だから、あの子も……。  深い息を一つ吐き、洗面所に映った自分の容姿を恨めしそうに睨みつける。 「あからさまに年下だと思われてた。俺の方が、長く生きていると言うのに……。それもこれも、この!!」  クソっと鏡に映った自分の顔に悪態を()く。  そして、流れる水でバシャバシャと顔を洗い、両手でバシッと頬を挟むように叩いた。 「ううん。違う。あの子は悪くない」  明らかに八つ当たりだ。  コンプレックスに感じている部分を指摘されたことに憤慨していることも結局のところ、樹は知らないことなのだ。  頬から首へと水が伝い、ポタポタと洗面器へ落ちる。急いでタオルを手に取り顔を拭いて、再び鏡を見る。 「今度会ったら謝ろう。俺の態度に呆れたかもしれないけど」  再びパンパンッと顔を叩く。そして、新しい冷たい水の入った洗面器を持ち、祖母の待っている部屋へと急ぐのだった。
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