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「ユキ、泣いてるの?」
鼻を啜りながら、言葉に詰まっていると「そうだ、ユキ。そこの箱取ってくれるかい?」と優しい声で祖母が言った。
祖母が指を指した先にある木の箱に手を伸ばし「これのこと?」と、箱を抱える。
「そう。そこに、薬が入ってるはずなんだけど」
箱を開けて、目につく箱を1つずつ祖母の目の前に出す。
「えっと、解熱剤があったと思ったんだけどね。もう少し経ったら熱も下がると思うし、辛抱するわ。それまで悪いけど、時々タオル変えてくれる?」
「それはいいけど。でも、解熱剤ってなに?」
「熱を下げる薬。それだと、身体が楽になるかと思ってね」
——薬があれば、おばあちゃんが楽になる?
暗かった気持ちが、ぱぁーっと晴れていくようだった。
はやる気持ちを抑え「俺、部屋に戻る」と、言って襖を閉めた。
今日は、運が良く曇り空だった。
それに、3月初旬は日差しもさほど強くない。
なにより自分は、吸血鬼と人間のハーフで、少しは耐性もあるかもしれない。 急いで財布の入ったトートバックを掴み、音をたてないように慎重に玄関へ向かう。
靴を履き終えたユキは、祖母がいる和室の方を見ながら「おばあちゃん。俺、ちゃんと買ってくるからね」と心の中で呟いた。
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