雪を融かす一匙の蜜(1)

6/7
250人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
 ーーん?  確認するようにユキは男の首に鼻をつけ息を吸い込む。  ーーなんだ? この匂い……。  今まで動物の精気として一度も嗅いだことのない猛烈に甘くて、蕩けそうな匂い。しかも、体の奥底から力が(みなぎ)る感覚に戸惑う。  ーーどうして、俺はこの人の匂いでこんなに……。  夜な夜な外に出ては、猫や犬の精気を吸っていたが、こんな感覚に今までなったことがない。  それを裏付けるかのように、さっきまでフラフラだったユキの体は、家の玄関を出る時以上に元気を取り戻していた。  ーー不思議な(ひと)だな。  ユキは、首筋に埋めていた顔を上げ、抱き(かか)えてくれている男の顔を見つめながらおずおずと訊ねた。 「あの……。きみは、なに者?」 「はい?」  この甘い匂いの正体を確認したくて発した質問だったのに、どうやら的を得なかったらしい。  どう尋ねたら、自分が望む答えをくれるのだろうと思いながら、再び口を開く。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!