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「えっと……。きみって……」
「あぁ。ごめん。名乗っていなかったな。同じ男に抱き抱えられるのは、気持ち悪かったか?」
「そうじゃない」とふるふると頭を振る。
男は「よいしょ」と、木陰にあるベンチの上にユキを座らせ、隣に自分も腰を下ろした。
「俺、相楽樹。22歳で、すぐそこの慶政大学に通っているんだ。今日は、学校に行ったんだけど授業が休講でさ、家に帰ろうと思っていたら、あんたと出くわしたわけ」
「大学…生……?」
自分より大きい体躯の樹が、年下だと思わなかった。
「君は高校生? 今、春休みだもんなー」
樹の言葉にユキは、パッと顔を上げて目を丸くする。
小さくても、細くても、童顔でもれっきとした大人だ。
「こ、高校生じゃない!」と、ひときわ大きな声で抗議する。
その様子に今度は、樹が驚いて目を丸くする番だった。
「え? マジで? じゃあ、俺と同じで大学生か?」とすまなそうに両手を合わせ謝ってきた。
「ちが……。俺は、30歳……」と、ユキは口を尖らせそっぽを向きながら小さな声で言う。
「はぁぁぁぁぁぁー? 嘘だろ。そんな容姿で?」
樹は口に手をあて、信じられないものを見るような目でユキを見る。
ーーし、失礼なヤツ!
ユキは怒りに震えながら「よ、容姿は、関係ない!」と、ベンチを立ち、座っていた樹に向き直り、キッと睨みつけた。
「助けてくれたことにはお礼を言うけど、初対面で失礼な人だね。もう会うことはないと思うし、さ、よ、う、な、ら!」
憤怒しながら、ユキは踵を返す。
すごい剣幕で怒っていたユキの様子をポカーンと口を開けて見ていた樹をそのままにし、その場を走って後にした。
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