雪を融かす一匙の蜜(3)

1/4
250人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

雪を融かす一匙の蜜(3)

「はぁはぁ……。雨なのに、なんで?」  雨の中ユキは、昨日と同じく貧血で苦しんでいた。  うずくまって右手に傘を持ちながら、急いで鞄の中を探す。  昨日の教訓もあり非常食を持ってきた。まさか使うことになるとは思わなかったが。 「あ、これこれ」  手に掴んだパウチされている、飲み物を手に取る。  ーー早く、早く飲まなきゃ。   蓋を開けて口をつけようとした時「また、具合悪いの?」と優しい声が聞こえて来た。  慌てて見上げると、傘を差しながら心配そうに眉根を寄せた樹がいた。 「お兄さん、昨日より酷い顔してるけど」  こんなに早くまた会えると思ってなかったユキは、口をつけていた非常食を吸うのも忘れて、ぼーっと樹の顔を見やる。 「大丈夫?」と、しゃがんだ樹はユキと同じ目線になった。  戸惑いを隠せないまま黙っていると「立てないなら、おぶって家まで送る?」と言いながら、樹は苦しそうに呼吸をしているユキの背中を摩った。「あー、おぶられて道を歩くの嫌だよな。でもな、雨降ってるし体冷えちゃうし……。んー……」 樹のブツブツと「あーでもないこーでもない」と(ひと)()ちている姿が面白くて、ユキはプッと吹き出した。 「ごめんね。俺、これ飲めば体力回復するから大丈夫」と、手に持っていた非常食を一気に吸い込む。 「ん。この量だとこれがマックスか……。一時間くらいしかもたないかも」とぼそっと呟く。そして、少しはさっきより体調が元に戻ったユキは、樹の手首を掴み立ち上がった。その様子を不思議そうな顔で、樹は見ていた。  立ち上がったユキは、一瞬背の高い樹を見上げたのちに、深く頭を下げた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!