250人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
雪を融かす一匙の蜜(3)
「はぁはぁ……。雨なのに、なんで?」
雨の中ユキは、昨日と同じく貧血で苦しんでいた。
うずくまって右手に傘を持ちながら、急いで鞄の中を探す。
昨日の教訓もあり非常食を持ってきた。まさか使うことになるとは思わなかったが。
「あ、これこれ」
手に掴んだパウチされている、飲み物を手に取る。
ーー早く、早く飲まなきゃ。
蓋を開けて口をつけようとした時「また、具合悪いの?」と優しい声が聞こえて来た。
慌てて見上げると、傘を差しながら心配そうに眉根を寄せた樹がいた。
「お兄さん、昨日より酷い顔してるけど」
こんなに早くまた会えると思ってなかったユキは、口をつけていた非常食を吸うのも忘れて、ぼーっと樹の顔を見やる。
「大丈夫?」と、しゃがんだ樹はユキと同じ目線になった。
戸惑いを隠せないまま黙っていると「立てないなら、おぶって家まで送る?」と言いながら、樹は苦しそうに呼吸をしているユキの背中を摩った。「あー、おぶられて道を歩くの嫌だよな。でもな、雨降ってるし体冷えちゃうし……。んー……」 樹のブツブツと「あーでもないこーでもない」と独り言ちている姿が面白くて、ユキはプッと吹き出した。
「ごめんね。俺、これ飲めば体力回復するから大丈夫」と、手に持っていた非常食を一気に吸い込む。
「ん。この量だとこれがマックスか……。一時間くらいしかもたないかも」とぼそっと呟く。そして、少しはさっきより体調が元に戻ったユキは、樹の手首を掴み立ち上がった。その様子を不思議そうな顔で、樹は見ていた。
立ち上がったユキは、一瞬背の高い樹を見上げたのちに、深く頭を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!