雪を融かす一匙の蜜(4)

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雪を融かす一匙の蜜(4)

 家に招いたあの日以来、度々(たびたび)樹は家に遊びに来ていた。  樹の日常生活の話は、人間の生活が垣間見れるようで楽しかったし、樹と一緒に過ごしているような錯覚を覚えた。  今も『今日の話題はなにかな』とワクワクしながら紅茶を啜っていると、樹が片眉を寄せながら見つめてきた。 「ユキさん。気になってることを聞いてもいいですか?」  ――気になっていること?  いつもと様子が違う樹に、緊張が走る。  そして「なにを?」と、ビクビクしながら上目遣いで訊ねた。 「ユキさんは、どうして、外に出れないの? おばあさんは、頑なに昼間は外に出ちゃいけないって言うし、初めて家にお邪魔したときも怒っていたじゃない?」  樹の問いかけに目を白黒させながら、顔を背ける。  ーー言えない。俺が吸血鬼なんて……。人じゃないなんて。  今まで、樹と話すのは楽しくて忘れていたが、自分と樹は種類が違う。人種も、尊厳も、食べ物も、生きる年数も……。 「ほら、俺って体が弱いから……」 「でも、家ではすごく元気じゃない。出会った時と全然違う」  ギュッと肩を掴まれ、背けていた顔を樹に向き直される。 「何か隠してる?」 「か、隠してない!」と、つい強い口調で反論してしまう。目を見開き驚いた様子の樹だったが、ゆっくりと話し出した。 「もう元気なら、天気がいい時に遊園地行こう。ユキさん、行きたがっていたでしょう?」  ユキは、みるみる悲しい顔になっていく。  太陽が天高く上がっている昼間に外に出てしまったら、ユキの体はどうなるのかわからない。雨の日ですら貧血で耐えられなかったのだ。 「行きたいけど、俺は外に出られないんだ。……体が弱いし」  震える体を押さえながら樹の顔を見ると、なぜか悲しい顔をしていた。まるで苦虫を噛みつぶすような切ない顔を。
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