中毒

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中毒

僕は、あのラーメンと出会って以来、毎日ラーメン店に通い詰めた。本当に美味しかったのだ。毎日通えば、店員にも顔を覚えられ、あっという間に常連客の仲間入りをした。ほとんど接客せず、店の奥で静かにラーメンを作る大将とも、最近は時々目が合うようになり、会釈くらいはするようになった。 僕は券売機の前に立ち、メニューを選択する。この時が一番悩む。僕の心の中で彼女達(ラーメン)が争うのだ。僕を取り合って・・・ 「今日は私(醤油つけ麺)の日よ。私と彼が出会ってちょうど1か月になるのよ。私こそが彼の正妻なんだから。」 「何を言ってるの!?あんた(醤油つけ麺)は押しが弱いから、3日で飽きられてしまったんでしょ?私(辛味醤油つけ麺)は1週間続けて味わい尽くされたのよ。私の辛味に彼も虜になってしまったのよ。」 「まあ落ち着きなよ。あなた(辛味醤油つけ麺)はツンツンしてばっかりだから、私(塩つけ麺)に彼をとられちゃったのよ。もっと彼を包むように愛してあげなきゃダメよ。」 「あんた(塩つけ麺)さ、澄ました態度をとっているけど、2日で飽きられたじゃない?」 「けれど、あなた(辛味醤油つけ麺)の元に彼が戻ってきた訳じゃないわよね?」 「そうよ!彼は私(醤油つけ麺)の元に戻ってきた。刺激を求めても最後は私の元に帰ってくるのよ!!」 「けど、その後すぐに彼は別の女(混ぜ麺)に浮気しちゃったよね?」 「でも1日で私(醤油つけ麺)の元に帰ってきたわよ。浮気ですら、訪ねてもらえないあなた(塩つけ麺)の僻みなんてどうでも良いわよ。」 「まあ私(塩つけ麺)は彼が疲れた時に優しく包んであげることができれば、それで十分よ。」 「何を良い子ぶってるの?あんた(塩つけ麺)の出番はないわ。彼はマゾだから辛味にあるツンを求めているのよ。あんた(塩つけ麺)は寂しい時に利用されているだけよ。」 彼女達の喧嘩は券売機の前に立つと一番激しくなる。まさに修羅場である。本当にこれはまずい。今日は二郎系を試してみようと思っていたのだが。二郎系はボリュームがあり凶悪だから、これまでは手を出せずにいたのだが。 「今日はあたい(二郎系ラーメン)の出番ね。」 「嘘でしょ?彼はどこへ向かっているの?私(醤油つけ麺)、分からなくなっちゃった。」 「私(辛味醤油つけ麺)のツンで満足しろよ。どんだけ求めているのよ?」 「私(塩つけ麺)はどんな彼でも受け入れるわ。」 券売機で二郎系ラーメンの券を購入し争いは終息する。しかし、この争いは明日も繰り返される。この修羅場が終わることは永遠にない。だってどれも美味しいから。1つを選び続けるなんてことはできないのさ。 後日、罰が当たったのかもしれない。僕は二郎系ラーメンの凶悪さにお腹を壊してしまった。どうやら、暴力系ヒロインは僕には向かないようだ。幼なじみのような親近感を感じる醤油つけ麺か、おおらかな印象の塩つけ麺に癒してもらおうか。辛味醤油つけ麺は、しばらく勘弁かな?今はツンを受け入れる余裕がない。お腹の調子が落ち着くまでは我慢してもらおう。
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