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赤の他人なはずなのに、どこかで会ったことがある。
階段ですれ違った瞬間、ふたりはそう感じた。
「あの!」男が振り向いて言った。「ぼくたち、以前にどこかで……」
声をかけられた女は、驚きつつも男を見つめ返した。
「じつはわたしも、あなたと会ったことがある気がして……」
こうしてこの日、ふたりは「再会」した。
それは前世の記憶と縁がもたらした、運命的な出会いだった。
「と、あのときは思ったんだけどさ」テーブルに頬杖をつきながら男が言う。「たぶん勘違いだったわ。おれの記憶にある女の子は、もっと気が強かった気がするし」
「あら、わたしも一緒よ」と女は言った。「前世で会った男の子は、たしかもっとやさしかった」
アパートの部屋でふたりはテーブルを挟み、向かい合って座っていた。
窓の外では、雨が強く降っている。
「お互い、赤の他人を運命の相手と間違えたわけか」
「じゃあ、別れる?」
ふたりはしばし沈黙した。
雨音が部屋に響く。
「おれは……」やがて男は目を逸らして言った。「おれは運命の相手より、目の前のおまえを大切にしたいと思っているけど?」
「わたしは……」と女はうつむいて言った。「わたしはむしろ、これが運命の出会いだと思っているから」
自分の言った恥ずかしいセリフと相手から聞いた言葉で、ふたりはお互いに顔を赤らめた。
「そ、それじゃあ、これからもよろしく」
「うん、こちらこそ……」
ふたりはただのラブラブなカップルだった。
出会いのきっかけは少し変わっていたけれど、それ以外は愛おしいほどに「ふつう」だった。
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