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ジョーカー第三実働部隊、隊員、若鷺仁はいつもの制服姿で詰め所の自分の席に座って、書類にハンコを押していた。
仲間も着席して事務をやっている。
今朝は天気が良く、他部隊の出動もなく平和だ。
出動待機は各部隊の当番周りで、今週の第三部隊は屋内活動担当。
相談員もやる。
第三部隊のマドンナは包容力のある武闘派美魔女。
仁はみんなと一緒に彼女の配った冷たいコーラを楽しんでいた。
窓際で栽培されている柑橘系の植物は、ちょうど実が色づいたところで、いい香りを放っている。
実が小ぶりでキンカンに似て、加工しないと少し酸っぱいと聞いている。
マメに水やりをしている隊員がいるようだ。マドンナだろうか。違うとしても、屋内の植物には癒やされる。
向かいの席で仁と同じ二十代の女性隊員、屋形ちまが同じハンコ作業をしていた。
ボブカットのストレートヘアで小柄。
端正だが少年のような面立ちをしている。
よくロン毛の男の子と間違えられる。
ちまの机の上にはコーラの他に、ペットボトル500mLが何本も立っている。
彼女が一本を一気飲みする。
ボトルを置くと、隣のペットボトルの手を出した。
それも飲み干した。
彼女が三本目を取ると、その手に誰かの手がガシッと重なった。
彼女が相手を振り返る。
彼女の隣の席の同世代男性隊員、御門凪だった。
ちまと凪が睨みあう。
その後、無言でペットボトルの取り合い。
何でもいいから何か言え。
ちまはギリギリ健康の部類に入る女性だが、あと少しで多飲と言われている。一日六リットル飲んでいる現実がある。
凪は親切心でちまを止めたようだが、説得しないで張り合ってるところが大人っぽく見えない。
仁は凪を止めて廊下に呼び出した。
「心配だって言えばいいだろ」
「あいつが悪いんだ」
凪が口をとがらせる。
凪は仕事中はクライアントから小悪魔的に見えると言われるが、内輪ではあまりに子供っぽく、女性陣に恋愛対象として見られない。残念な人の看板をしょって歩いているような青年だった。
仁は凪と詰め所に戻り、小用があってパソコンを開いた。
「凪」
「何だ」
凪がちまからペットボトルを強奪して返事をする。仁は告げた。
「SOSエンジンに新規通知だ」
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