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俺の住んでいるマンションの傍には酒屋がある。歩いて10分くらいのところだ。小さなところだが店先にはちょっとした野菜なども置いてあって昔ながらの商店で客足も多い。店の横にはズラーっと自動販売機が並んでいて酒屋だけにビールや発泡酒、焼酎のサワーなどが売っている自動販売機もある。そこには前に陣取って座っている肌の色が浅黒いおじさんがいる。肝臓が悪いのか日焼けには見えない。色の黒さは風呂に入っていないようにも思えるが少し黄疸ががっているところは、やはり酒なのか。俺は小心者なのであからさまに見たりはしないが通学途中の小学生などはジロジロと物珍しそうに見ている子もいる。それでも気にする風でもなくおじさんは自動販売機の前で胡坐をかいたり、時には寝そべってグウグウと鼾をかいている。ある日おじさんが俺に声を掛けてきた。
「そこの高校生、君は毎日ここを通るね」
なんと、おじさんは泥酔しているのかと思いきや、周りのこともきちんと把握しているんだ。
「ええ、通学路なんで」
俺は訝し気に目を細めながら答えた。
「今日は風が強い。台風でも来るのかい?実は俺は家に帰っていないんでテレビを観ていないんだ」
「今週の土日には関東に上陸するそうです」
「そうか。今日は何曜日だったかな」
「木曜日です」
俺はそう言うと、その場を通り過ぎようとした。
「ちょっと待てよ、話はまだ済んでいないんだ」
おじさんは立ち上がるとヨロヨロとこちらに歩いてきた。
「何か用事ですか?」
「ああ、手紙をな。渡してほしいんだ」
「手紙ですか。誰に?」
「俺にも一応は妻や子供がいるんだよ。ま、遺書みたいなもんだけどな」
おじさんはそう言うと、汚れて黒くなった上着のポケットからグチャグチャになった紙切れを取り出した。これが遺書?俺はますます訝しく思った。早くこの場から過ぎ去ろう。
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