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マルで人ごと、バツでも受けろ
これまでのあらすじ
悪ガキから大人になって大人しくなったと思っているだけで身体だけが大きくなってただタチが悪くなった五味秋人は偶然の重なりあいから日本最強のエージェントになっていた。しかし、それはただの勘違い。
神さまのイタズラのようにちょっとした行動がとんでもないおおごとにつながって行く。
ひょんなことからおっさんスパイを助けた秋人は、助けたことに気づかず大学生へ向かう。
その前にサークルの仲間と何やら約束をしていた彼はすっぽかしてOLを視姦していた。
それを間近で見ていた公安職員の谷口と八次。
ただのエロガキ秋人と深読みし過ぎな八次。そして何がが巻き起ころうとしていた……!
side 八次鈴香
隣で優しげな表情をしながらも何処か危うい雰囲気を出している上司、彼の名を谷口旭(たにぐちあさひ)と言う。
彼は私が勤めるある組織の上司で見た目は凄く優しげでつい道を聞きたくなりおじさまと言う感じだ。
それを以前言ったところ"頼りたくなるタイプじゃないのか?"と笑いながら軽く小突いてくるような中身も優しくて楽しい明るい性格の人なのだ。
でも、仕事となると全く変わってくる。
今までの優しげな雰囲気から何処か危うい空気を出すおじさんに変わるのだ。
仕事なのだから、雰囲気が変わるというのは当たり前なのかもしれないけれど、そうじゃなくて、そう……何処か思いつめているような。
視線の端で対象が移動するのを見て私は未だに考えごとをしているのか気づいていない上司に声をかけた。
「先輩、先輩?」
私は彼を先輩と呼ぶ。
エージェントでなくとも後ろ暗い組織で偽名であろうと他の組織に名前が割れるのはよろしくない。
だから彼を谷口さんとか、旭先輩とは呼ばずに先輩と呼んでいる。
それに対して彼は私をシンちゃんと呼ぶのだが、某アニメのエロガキみたいだからやめて欲しい。
私が新潟出身で親がしんのすけって言うブランド米を作っていたことから人事部のお偉いさんが私を呼ぶときはシンちゃんね?と通達したせいだ。
こう言ったアホなネーミングセンスのコードネームはたくさんあって敬愛する上司をコードネームで呼ばず先輩と呼び続けるのもその為だ。
対象は街角から出るとスマホを手にしたまま歩き始めた。
時折ぶつかりながら、すれ違いざまに小声で"何処見て歩いてんだカス"と言いながら歩いて行く。
その小声は彼のネックレスに取り付けられた盗聴器からこちらのイアホンへと流れてくる。
流石最強のエージェントと言うべきか芸が細かい。
これだけ人がいると誰がどんな組織の人物なのかわからない。
だからただのチンピラに見せることで相手に隙を与えず、しかも日本ではわざわざチンピラに絡む奴はいない。絡まれても逃げるのが普通だ。
つまり関わったら目立つ。
目立つことは本業をエージェントやスパイにしている人間にとって致命的だ。
つまり、彼が堂々と歩いていても話しかけることも出来ない。
本来ならゴロツキでも雇ってけしかければいいが日本最強の座を持つだけあってその実力は本物。
今日の朝だって我々のファイルにはなかったが何処かの組織の人間を3km先の雑貨ビルの8階から撃たれたのを突き飛ばして助けた。さらに顔面ギリギリを飛んで行く銃弾を笑いながら紙一重でかわしたその様子を私は見ていた。
とても自分達と同じ人間とは思えない。
先輩は私に彼は最強のエージェントだと教えて来たけれど、毎回あんなのまぐれに決まっていると呟いているのを聞いている。
先輩はきっとツンデレなのだろう。
私だって最初はあんなのおかしいと思っていたけれど、今は違う。
杖をつく老人に注意されて舌打ちをして明らかに体を支えているだろう杖に蹴りを入れるような彼でも実力は本物だろうと。
日本最強のエージェント。
彼の行動には全てに意味があると。
私はそう思っている。
さっきの行動にもきっと意味がある。
きっと。
相変わらずスマホの画面を見ながら歩いて行く対象"五味秋人"と仲のいい父と娘という役で追いて歩いて行く私達。
対象はそのままふらふらと歩きながら、いつも大学へ行く方の電車へ乗り込んだ。
やはり池袋で仲間と合流すると言うのはフリ、本命は大学方面か。
きっと我々以外にも様々な組織が彼のスマホをのぞいているだろう。
そんな状況でいくらなんでも馬鹿正直に仲間と合流するとは思えなかったがやはりそうだったか。
まるで行き先を間違えてしまっていることに気づかない人のようにしか見えない。
彼はスマホに夢中になりながらもちょうど空いた席にドカリと座り足を組んで踏ん反った。
ここは電車内だと言うのにすごい座り方だ。
電車内の同じ車両でたまたま情報収集をしていた組織の者に席を譲ってもらい先輩と一緒に座る。
席は彼……五味秋人の隣である。
電車に乗り込む際、高速でホームへと乗り込んでくる車両をじっと見ていたが、なるほど、彼は組織のエージェントを探していたと言うのか。
一瞬で対象の人物を見分ける、その身体能力には脱帽するしかない。
電車に乗ってから数駅、彼の向かい側に美人なOLが乗り込んできた。
特になんともない光景であったが彼は違った。
スマホを見るフリをしつ向かいに座った美人なOLを見ているのだ。
完璧だ。
素人丸出しで自分はスマホを見ているだけで貴方は見ていないよ、と言った感じで自分の演技は完璧だと勘違いしているが実際側からみるとガン見している。
……ようにしか見えない。
まるでただのセクハラ変態野郎にしか見えないのが凄い。
しまいには今まで見ていたweb漫画アプリを閉じてメモアプリを起動し、見ていて恥ずかしくなる変質的な文章を書く始末。
きっと彼のスマホや行動を見ていたら、間違えて一般人を追いかけてしまったのか?と他の組織の連中は不安になるだろう。おそらくそれが彼の戦法だ。
何かが起こるまで何もわからない。
常に予想を裏切り行動に規則性はない。
おそらく今までの経験上から向かいに座った美人なOLはこれから巻き起こる、もしくは巻き起こっている事件の重要人物。
だからと言って五味秋人から目を離すわけにも行かない。
「先輩」
と小声で呟いた声がインマイクを通してとなりに座る先輩に伝わる。
わかったと、目で頷いた先輩は俺がOLの方を追跡すると隣の彼のように舐め回すように見た。
そこに演技ではなく、本当にいやらしい感情を感じとった私は先輩の足を思いっきりヒールで踏んづけ、水道橋駅で下車する五味秋人について降りた。
XXX
その頃、池袋で"アレ"とやらをしようとしていた、大学生3人組は、既に動き出していた。
いつまで経っても来ない秋人に痺れを切らした砂森含む五右衛門ラバーズというサークルに所属するロクデナシどもは、大通りから外れた寂れた商店街。
それもそこかしこにチンピラどもがたむろしている治安の悪い地帯でゴミの後ろに隠れて誰かを待っているようだった。
縄張りにうるさいチンピラどもが彼らに何故文句をつけないかと言えば彼らのバックからアイツらには絶対手を出すなと忠告を受けているからだ。
ただし何故手を出してはいけないのかは言われていないのでここらのチンピラ達は砂森達は政治家の息子とか暴力団関係者だとか噂されているが奴らはただのサラリーマンを親に持つ極悪非道な悪ガキなのだ。
ただし、五味秋人の駒として見られてあるため捕まえたり妨害したりすることが出来ず結果的に奴らはやりたい放題出来てしまっているのた。
つまるところ、ゴミの後ろに隠れてただでさえ臭い体臭を更に臭くしなくとも堂々とやればいい話なのだが、スパイとか暗殺者とかエージェントなんて彼らはともかく元凶たる秋人さえ知らないのだから、堂々とやるわけがない。
何故池袋の寂れた商店街でゴミに隠れているかと言えば、拉致をしようとしていた。最悪である。思考がまるで秋人と同じである。これにピッタリな言葉ある。
目くそ鼻くそを笑う。
同レベルのくせにいないところで悪口を言い合っているお前らにはお似合いだ。
ゴミに埋もれてそのまま廃棄処分されて仕舞えばいいのに……そんな願いは叶わず、彼らは女性を一人裏道に引きずり込んでいた。
慣れた手つきで口を押さえ、流れるような手つきで貴重品を剥ぎ取る。
うーむ、一流な手さばきお見事です。
どうかその努力を人類貢献に使ってください。
砂森達は臭い息をふうふうと荒げながら口を押さえられてもなお助けを呼ぼうと声を上げる彼女の正体を知らなかった。
事件はとうに始まっていたのだ。
下品な笑いをしながらかちゃかちゃとベルトを鳴らし彼女の服に手をかけた砂森達は準備万端と言ったところか。
まあ、なんだ。昼間からお盛んなことで。
が、そこに集団が駆け込むような足音が聞こえ、ズボンを下ろしたまま後ろを見ずに見つかってたまるか!とばかりに走り出す五右衛門ラバーズの3人。
砂森はまだベルトを外しただけであったか他の2人はそうもいかない。
誰かが来たと軽いパニックになった一人がズボンを下ろしたまま走り出しこける。
だからといって助けるわけでもなく逃げるもう一人を転んだ男が掴み転ばせた。
"一人で逃げるつもりか?道連れにしてやる!"そう怒気を孕ませつつ逃げるのをやめ白いブリーフを晒したまま転ばした男を殴りつける。
顔を殴られて鼻血を垂らす男、彼に"ぺっ"と唾を吐いてズボンを履き直した男は砂森を追いかけるように裏道から姿を消した。
それと同時に表通りから入ってくる黒服集団。
鼻血を垂らしうずくまる男と、服を乱し泣きながら横たわる女性、その女性を確保し周りを見張る黒服集団。
その集団は薄黒い肌にサングラス、そしてスキンヘッドというSPのような風貌をしていた。
その一人が懐から取り出したリボルバーを抜き未だに蹲り誰かに呪言は吐いているのか奇声を上げている男に銃弾を撃ち込む。
ーースプ
いや、麻酔銃のようだ。
日本だと言うのにごっついマシンガンやアザルトライフルを構えて周囲を見張る黒服集団。
その中でも一人金色の髪を生やしたおそらくリーダー格であろう男は腰から取り出したトランシーバを口元に合わせ何やら聞き慣れない言語で話した。
暗号だろうか。
何かを待っているのか動かず銃を構える彼ら。
彼らの持つ銃の重厚感が充分にそれが本物だと証明している。
何が起こっているのか分からず、黒服集団に囲まれて守られてオロオロしている女性。
当たり前の反応である。
街を歩いていたら臭い男たちに連れ込まれ惨めな目にあってしまうかと思い泣いて現実逃避を始めたかと思えば黒服の明らかに本物くさい凶悪なフォルムの銃を構える集団に助けられる。
なんて……何処の映画のヒロインだと言うのだろうか。
ちょうど女性がそんな妄想に浸っていた時、さらに自体はややこしくなり始める。
先程まで沈黙と必要最低限だけの会話が行われていたトランシーバが慌ただしく通信が入り出した。
よっぽど相手側が慌てているのか暗号を忘れ平文での通信が入る。
何人ものオペレーターがまくし立てているらしく上手く聞き取れない金髪の男は"トランシーバに一緒に喋るな!"と英語で怒鳴りつける。
ブチブチと音を立てて通信が途絶える。
"何をやっているんだ!役立たずめ!"
そう怒鳴りつけながらトランシーバを地面に叩きつける手前、凄まじい爆音と共に裏道にいた全員が吹き飛ばされた。
ーードッッン!!
腹に響くような爆音。
それは至近距離からのショットガンによる攻撃だった。
一回で何発もの球が撃ち込まれ、さすがに防弾チョッキでも塞ぎきれなかったのか身体中から血を流して地面に伏せる黒服達。
確保していた女性といびきをかいて寝る男を掴みながら路地裏に転がり込む。
裏道は一瞬で戦場にと化した。
絶え間なく撃ち込まれる銃弾が道路や建物の外壁を削り火薬と何かが燃えたような焦げ臭い匂いが満たして行く。
時折投げ込まれる閃光弾。
黒服集団は閃光弾対策でサングラスを持っているが一般人はそうもいかない。
未だにぐうぐうと眠り続ける男は無視するとして女性の方は失明してしまう可能性がある。
近くで弾丸を受けながらも生き残っていた白人のハゲの一人が懐から取り出した予備のサングラスを女性にかけさした。
懐は4次元ポケットかよ……と言いたくなるほど色んなものが出てくる。
ついでに鳩とか出してやるよと、冗談を言える状況ではない黒服達は回線が回復したトランシーバで連絡を取り合う。
別々の道、店に体を潜り込ませている黒服達。
リーダーの合図とともに裏道にちょいと先だけを出した銃口が火を噴く。
ーーダン!ダン!ダン!
リズムよく撃ち込まれるショットガンに対し雨あられのように絶え間なく打ち返すライフル
ーーダダダダダ!!!
ダともガとも聞こえる音を出して撃ち返される弾幕が表通りを無茶苦茶にして行く。
弾丸が切れリロードをする頃にはショットガンの攻撃は止まっていた。
非日常に巻き込まれて興奮したのか、銃声がやんだことをいいことに顔を出す女性。
慌てて引っ張る黒服、そして撃ち込まれた弾丸が頰を擦る。
……馬鹿かお前は、そんな鬼畜なことは誰も言わなかった。
悲鳴を上げる女性と、それを見て一旦退くぞと声を荒げる金髪のリーダー。
表通りは真っ赤に染まり、頭部をなくした死体が、元は真っ白であったであろう服を真っ赤に染めた死体が転がっていた。
ちょっとした悪ふざけで、女性を拉致した砂森達により事態は混乱の渦に飲み込まれていった。
XX
仕留め損なったか……"国家安全保障機密保全委員会"から派遣されてきた暗殺者の男はスナイパーライフルのスコープから目を離しそう口の中で呟いた。
何が起きようとしているのだろうか……いやこれが五味秋人の計画か。
それはきっと誰にもわからない。
事件が終わるまで誰にも理解出来ない。
それが日本最強のエージェント。五味秋人の計画なのだ。
ーーーその頃当の本人は何をしていたかと思えば、呑気に遅刻して大学に行き法律の授業を受けながら、友達とくっちゃべっていた。
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