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インコを拝むカルト教団
前回のあらすじ
尊敬する先輩が向かいに座った女性にだらしなく鼻を伸ばしていたのを見て私の気持ちも知らないで!と内心怒りヒールで踏んづけて降りてしまう。
その頃、五味秋人が池袋に来ず痺れを切らしたサークル仲間は女性を拉致すると言う凶行を起こす。
ところが運悪くいかにもカタギではない黒服集団が駆け込みやってきたのをみて逃げる。何が起こったのか女性を変態どもから救った黒服集団に襲いかかる謎の襲撃者、暗殺者。次から次へと現れる敵。
この騒動の行方は!!
side 谷口旭
「ん"〜〜〜〜〜!?!?!」
声にならない声をあげ足を抑えた俺に五味秋人が同情の目を向けてきた。
八次……すまない、俺も男なんだ。
目の前にあんなに立派なものがあったら眺めたくなってしまうのは当然だろう。
うん、お、俺は悪くないぞ。
あくまで五味秋人の判断に従ったまでだ。
いくらなんでもヒールで踏むのは酷いぞ。
そう弁明する間もなく足早に立ち去る八次を目で追いながら向かいに座る女に意識を向けた。
特に怪しい感じはしない。
癪だが、五味秋人がじっくり見たり、話しかけた奴らは何かと後々重要人物になることが多い。
が、全然怪しく見えないんだよなぁ。
普通のOLさんって感じか。
まあ特徴を挙げるとすれば胸を強調しているという点だろうな。
普通ならスーツで隠す盛り上がりをワザと胸を張って強調しているという点がおかしいかもしれない。
近年、外国人旅行者の急増によって格段に、それでも海外に比べたら微々たる差だが治安が悪くなっている東京でこんな狙って下さいみたいな奴……サラリーマンにいるだろうか。
どちらかと言えば水商売系の姿勢だが、見た目は普通だ。
見た目は美人だし、体系もいいがなぜかこう、言い表せないが色気もないし……いや、どうだろう。普通というには何か不気味だ。
作ったという感じがする。
ふう……そこまで考えてため息を吐いた。
どっちにしろ向かいにいる女を追跡するのは決定事項だ。
どうせ今回も最後までややこしくてわかったものではないだろう。
深く考えずいつも通り仕事に忠実に動こう。それが俺たち"国家安全保障機密保全委員会"の仕事だ。
八次と別れていくらかしてこいつはどこまでいくのだろうと思っていた時、スマホを見て何やら動揺しているようであった。
目を見開いていたなんてわかりやすいことはしていなかったが、冷静さを保っているという態度を全面に出してきた姿は不自然だ。
別に根拠もなく怪しいと思い込んで漠然と怪しく見えてきたとは言っていない。
長年の勘というか経験というべきか。こう不自然な感じかするのだ。
職業上、一般人より隠すのが上手い連中とよく関わる。
目の前の女からはそいつらと同じ匂いがした。
突然電車を降りて反対方面の電車に乗り込んだ女を見て確信した。
こいつは今池袋で起きている銃撃戦の関係者だと。
銃を抜いた時が貴様の最後だ。
そう思いながら、改造スーツひっくり返して羽織った俺は移動しながらネクタイと付け替え、サングラスをかけヤクザ者へ変装をして追いかけ続けた。
XX
side 櫻井綾子
その連絡を受け私は現場へ向かっていた。
櫻井綾子、31歳。
地下鉄サロン事件など日本を恐怖に陥れたカルト教団インコ真理教の幹部。
櫻井綾子という名前は偽名であり、本名菅野優子は指名手配されている。
今日は組織拡大のための集会に参加するため電車にのり目的地に向かっていた。
電車に乗ったはいいが不快な思いをしていた。
向かいに座るチンピラがジロジロ見てくるのだ。
あまりに熱心に見てくるものだから一瞬、指名手配だとバレたのかと焦った私が馬鹿みたいである。
向かいに座ったチンピラは私の胸や足を見ていたが寝ているふりをしているのかズルズルと姿勢を低くして懸命にパンツを覗こうとしているらしい。
……本当に男って馬鹿。
訴えてやろうかな。
と思っているとチンピラのとなりに座っているおっさんも舐め回すように自分を見ていた。
"きもっ……"つい呟いたのが聞こえたのかまたそのとなりにいたクリーム色の服を着た女が眉をピクリと動かしていたのが印象的であった。
それから数十分。
"水道橋ー水道橋ーお出口は右側です。"
車内にアナウンスがなり目の前のチンピラが降りて行く。
未だに鼻を伸ばしてジロジロと胸を見ているおっさんの足をとなりに座っていた女がヒールの踵で踏んづけ降りていった。
声にならない声を上げるおっさんを見てざまあーみろ。そう思った。
"ソノ"連絡が入ったのは数十分後くらいだった。
巧妙に隠されていたはずの教主の血の繋がった娘が襲撃されているとの情報を得た。
日本國政府が持つ裏の裁判所と呼ばれているソビエト連盟と呼ばれる謎の機関によりインコ真理教の教主は処刑されている。
生きていることになっているがとっくに死んでいるので、犯罪者は殺すべきだと主張し、教団主処刑を掲げるデモ隊の望みは一生叶わないだろう。
新たなる神を謳っていた我が教団主は復活しなかった。
ちなみに私は信じていたわけではなくビジネスとして捉えていたわけであるがまさか指名手配にまで落ちるとは当時は見ても思ってなかった。
のであるから教主の血筋を守れとか命を張っている狂信者どもの気持ちはよくわからないが、今となっては教団の正統な後継者はその娘のみとなっている。
私としてはまだまだお金を稼いでくれる大切な教団がなくなっては困る。
何も知らず傀儡の教主であろうと、大切な金づるだから。
余計なことを知って突飛よしもない余計なことをさせないため、我々との交友関係や教団との繋がりを抹消しているはずだった。
それは娘に対してもであるし、世間からでもある。
それが何故バレたのか?
わからない。
いや、偶然なのだろうか?
いやいや、そんなはずはない。
なら何故?
だが今考えるのはそれではない。
混乱して暴風のように荒げる心を鎮め急いで電車から降りて、池袋方面へと引き返した。
side 元外交官補佐エリック
私の名前はエリック……ではないがそれどころではないのでどうでもいい。
暗殺者に狙われている哀れな男である。
それから外交官補佐という肩書きだったがつい先程クビになった無職のデフだ。
物理的にクビが飛ぶ寸前、助けられた私は暗殺の証拠である潰れた弾丸を回収して街の建物を縫うように移動したのだがどこまでもついてくる。
日系ロシア人、書類上は日系アメリカ人の私は、ロシア大使館に滞在し、仕事をすることになっていたが二重スパイをしていたのがバレたらしい。
恐らく現ロシア政府の機関の手のものに追われている。
ソビエト連盟。それが私が所属する組織、崩壊した前政権下で暗躍していた社会主義陣営の裏切りもの達と旧日本帝国軍の残党たちが立ち上げた特殊機関だ。
日本とロシアの味方であり同時に敵でもある組織。
そのためか、こうしてこんな感じで度々暗殺者が送られてくるのだが、ここまで熱心なプロポーズを受けたのは初めてかもしれない。
だいたいいつもなら一度ふったら相手も諦めると言うのに。
どういうつもりなんだ?
我々の機関は本拠地を北方領土に持つ。
当時、第二次世界大戦終結間近、日本が降伏宣言をした直後、不可侵条約を破ってソ連軍が進軍してきたと歴史書にあるが、あの時すでにあの作戦にはソビエト連盟の息がかかっており、当時日本側で防衛にあたっていた軍人たちにもメンバーいた。
彼らはマッチポンプと知っており、適当な交戦をしたのち、ロシア側と日本側でそれなりの役職に就任したメンバーがワザと口喧嘩し、ロシアのものでも日本のものでもない、両国が手を出さない……いや出せない土地。北方領土を作ったのだ。
なかなか酷いやり方である。
近年ロシアの大統領が北方領土の返還に協力的なのはソビエト連盟というやや力のある反乱分子を国内から排除する為だろう。
しかし、日本政府も"はい、ありがとうございます"とは言わなかった。
ソビエト連盟の本拠地があることは知っているようで、厄介者をよこすなら4島全部返せと強気の姿勢をしている。
コードネーム"エリック"それが私の名前。日本ソビエト連盟東京本部の特級調査員という肩書き持つ。
日系アメリカ人を騙る為ロシア大使館の命令によりデブになったがそれが今となっては足かせになっている。
まさか暗殺しやすくするため口実をつけて太らしたと考えるのはいくらなんでも考え過ぎだろう。
その時点で知っているならば大使館で働かせないだろう。
何人か重要人物を窃盗やら汚職やら冤罪をなすりつけて失脚させているのだから。
もしやロシア政府ではなく、失脚した奴らからの刺客か?
いやないな、奴ら祖国に帰る途中輸送船が事故にあっている。
事故だ。
ロシア海軍の誤射により発射された魚雷が輸送船に突き刺さったのだ。
あれは悲惨な事故だった。
あの時、軍艦の艦長室で友人達と何発で沈むか賭けをしていた時が懐かしい。
自分が狙われるとは。
まさかこんなことになるとは。夢にも思わなかった。
一応、同盟関係にある日本大使館に逃げ込んだ私は、手荒な歓迎を受け命からがら逃げ出したのだった。
まさかここまで手を回されているとは……!と思ったが相手もかなり本気らしい。
不本意ながら大使館近くの駐車場に置いてあった黒い外車に飛び乗り池袋へと向かう。
非常に不本意ながら窓ガラスを割ってマスターキーでエンジンをかけた私は信号を無視して急発進をする。
仕方ないだろう、死にそうなんだ。
許してくれると信じよう。
なんか後ろで厳つい奴らが騒いでいるが、そうだったのか。
バックミラーで確認したところ運悪くヤクザのような連中の車を盗んでしまったらしい。
……しかし、窓ガラスを防弾にしていないのは後ろ暗い組織の先輩としてどうかと思うが。
そのおかげで簡単に窓ガラス割れたからよしとしてやろう。
しかし、幸運だったかもしれない。
この車……そこかしこに武器が隠してある。
ナイフ、小刀、ピストル……マスケット銃?いやなんだ最後のは。あとは、ん?コンバットナイフに防弾シールド、それにアサルトライフルか。戦争にでも行くつもりか?
よく捕まらなかったなこれ。
少し探るだけでボロボロ出てくる。
片手で運転しながらこんだけ出てくるってこの国の警察は何をしているんだ?
なんのための見回りだ?
ポケモンでも集めているのか?
車に乗ってからというもの暗殺者の攻撃はピタリとやんだ。
見失ったか、向こうが移動手段を持っていなかったのか。
しかし、私は油断ならないと思っていた。だから車を飛ばして池袋へ向かっていた。
それからしばらくして、私を救出するため展開中の部隊が公安の手の者と交戦中に謎の組織に襲撃され銃撃戦をしているとの通信が入った。
ジェフ、ロニー、ザブ。3人が至近距離からショットガンを撃たれ死んだらしい。3人ともスキンヘッドだ。
ロニーは天然もののハゲだったのを覚えている。惜しい奴を失った。
もうハゲネタが出来ないと思うとしんみりしてくる。
車を運転しつつも目を瞑り十字を切った。
しかし、私はドンという音とともに意識を覚醒させた。
どうやら人を引いたらしい。
アーメン
とりあえず私はもう一度十字を切り、前を見て運転を再開した。
目の前に見えるバリケード。
それを見て引き返す車を横目に、私は直視する。
どうやら警察隊が道路を封鎖しているらしい。
だが知ったことではない。
拡声器で止まれと叫ぶ警察を無視した。
アクセル全開にした私はそのままバリケードの中央を突き破り仲間のいる方を目指す。
そこかしこに置かれたスパイクがタイヤを打ち抜きズタズタに引き裂く。漏れた空気が、タイヤをしぼませ運転を不安定にする。
そして威嚇発泡を通り越して銃を乱射する警察。
暗殺者に狙われていた時よりボロボロになった車は見るも無残だ。
多分持ち主に見せたら私を楽には殺さないほどに痛めつけるだろう。
ボロボロになって黒煙を上げる車は市街を走る。
味方は撤退したのだろうか、トランシーバから聞こえてくる通信は相変わらず混乱していてわからなかった。
そこにちょうどよく通信が入った。私の電話だ。
電話番号は非通知。暗殺者か?どこに言ったかわからないから教えてとか言ってくるのだろうか?
そんな冗談を考えつつ
"もしもし"と出ようとした時だった。
屋上に座る人影を見たのは。
私の行動は早かった。ドアを開け、倒れるように飛び降りた。
直後アパートの屋上から放たれるオレンジ色の光が車に直撃した。
轟音。
真っ赤に燃え上がる車と、爆風によりグエッとカエルが潰れたような声をあげ倒れこむ。
足に怪我をしたのか立ち上がれなかった私はそのまま横になりながらゴロリゴロリと移動し、半開きにされたマンホールから地下水道に身を滑らした。
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