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そんな思考が駆け巡る中、少しおかしいことに気づいた。被害者の女子高生は、駅長を呼ぼうとしないのだ。
その理由はすぐに分かった。
衆人の一人が「駅員さんを・・」と声を上げた時、一人の男が制止した。
いかにもごろつきと分かる服装、そしてその道の雰囲気を漂わせた男だ。
女子高生はその男に駆け寄り、腕に手を回し体を摺り寄せながら俺を指差した。
「おにいちゃん。この男よ! この男が、私の体をっ」
一目で兄妹でないことくらいは分かる。その類の男と女子高生、よくあるパターンだ。
すぐに、強請りたかりの部類だと理解した。同時に衆人が俺たちから遠のいた。彼らも強請りだと察知したのだろう。
男は、俺の女に何をするんだ、と強く出てきた。三千子の存在などおかまいなしだ。
状況は、こちらに不利だった。
男は、警察に行くか、それとも金をよこすかの選択を迫った。予想通りの恫喝だ。
なんてうっとうしい奴らだ!
そう思った時、俺の前で長い髪がふわりと揺れた。
「中谷くんは、そんなことはしないわ」
三千子がすっと前に出たのだ。俺と相手の間に立った形だ。
すると女子高生が「この男、こんな綺麗な彼女がいるのに、私の・・」と言いかけ、口をつぐんだ。
女子高生の目がカッと見開かれている。見開かれたまま閉じない。その目は三千子の方を向いている。三千子が睨みつけたのだろうか?
目もそうだが、体も動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のような状態だ。
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