洞窟

7/7
723人が本棚に入れています
本棚に追加
/1272ページ
 だが結局、三千子は、洞窟の中で行方不明になったのだ。  そして、俺は捜索願いも出すことなく、その場を逃げるように立ち去った。  そんな俺の姿を誰も見ているはずがない。  二人で入って、一人で出てきた。誰も気がつきはしない。  俺のした犯罪を知っている人間・・それは、市村三千子本人だけだ。  三千子に家族がいたのかどうかも知らないが、そんな問い合わせもなかった。  あれきり、三千子には会っていない。  ということは、三千子は、やはり・・  三千子が学内から消えたのにも関わらず、誰も三千子の話をする者はいなかった。  大学内に、三千子は友達もいなかったようだ。  三千子は、孤独だったんだな・・  故に、近藤が三千子に出会うはずはないのだ。   洞窟に落ちた三千子を置き去りにしてきたのは、俺が殺したのも同然だ。   あの日以来、姿を見せない三千子は死んだはずだ。   直接ではないにしろ、俺は三千子を殺めたのだ。  その後の俺は、その非人道的な記憶を忘れる為、無我夢中で、人生の昇りコースを歩き始めた。  だが、忘れることなんてできるはずもない。ただ、記憶を操作していたに過ぎなかった。  
/1272ページ

最初のコメントを投稿しよう!