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だが結局、三千子は、洞窟の中で行方不明になったのだ。
そして、俺は捜索願いも出すことなく、その場を逃げるように立ち去った。
そんな俺の姿を誰も見ているはずがない。
二人で入って、一人で出てきた。誰も気がつきはしない。
俺のした犯罪を知っている人間・・それは、市村三千子本人だけだ。
三千子に家族がいたのかどうかも知らないが、そんな問い合わせもなかった。
あれきり、三千子には会っていない。
ということは、三千子は、やはり・・
三千子が学内から消えたのにも関わらず、誰も三千子の話をする者はいなかった。
大学内に、三千子は友達もいなかったようだ。
三千子は、孤独だったんだな・・
故に、近藤が三千子に出会うはずはないのだ。
洞窟に落ちた三千子を置き去りにしてきたのは、俺が殺したのも同然だ。
あの日以来、姿を見せない三千子は死んだはずだ。
直接ではないにしろ、俺は三千子を殺めたのだ。
その後の俺は、その非人道的な記憶を忘れる為、無我夢中で、人生の昇りコースを歩き始めた。
だが、忘れることなんてできるはずもない。ただ、記憶を操作していたに過ぎなかった。
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