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そこまで、記憶を遡った時、
俺の座っているファミレスのシートが、ずんと揺れた。後ろに誰かが座ったようだ。
ふわりと雨の匂いがし、微かな香水の匂いもあとを追うように漂ってきた。
体に降りかかった雨と香水が混ざったような匂い。
若い女性だ。他の一人客と同じように雨宿りなのだろう。
近藤がチラリと俺の後ろの席を見た。昔から近藤は女には目がない。だが、そんな近藤でも俺の真後ろに座った女性の顔を見ることはできない。
近藤は、「うっかり、顔を見損ねた」と笑った。
俺は、「近藤らしくないな。ちゃんと見ておけよ」と冗談交じりに言った。
・・俺は、ちらっと見ただけだが、特に興味も沸かなかった。
外を見ると、更に雨が強くなっているのがわかる。窓際の席。ガラス窓の上を雨粒がタラタラと伝っている。
目の前の近藤は、大きなハンバーグを食べながら、
「その時からだよな? 市村三千子が痩せ始めたのは・・」と話を戻した。
「ああ・・そうだ」
「他の奴ら、みんな驚いていたぜ、市村が、中谷の好みに合わせて、ダイエットしているんだってな」
そう、あの日から、三千子はダイエットを始めた。
だが、俺は、そんなことは望んではいなかった。
だが、そのことを言えない雰囲気が三千子にはあった。何かに憑りつかれているように見えたからだ。
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