記憶

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「三千子」~ 記憶に残らない女 ◆記憶 どうしても、記憶から欠落してしまう人間がいる。 例えば、何度も会ったことがあるはずなのに、顔を見ても、誰だったか思い出せない。 またその逆に数回会っただけなのに、その人の顔はもちろんのこと、その人と話した会話の内容を鮮明に憶えていたりする。    ネットの中の言葉もそうだったりする。ご大層なことを書いているにも関わらず、誰の目にも留まらない。  数が多いのに、誰にも相手にされない。またその逆に、たまたま書いた言葉が多くの人々を引き寄せたりする。  ・・目に見える人間も、ネットの言葉も同じだ。  そのことを誰かに話すと、 「そういうものだ」と返事が返ってくる。  そして、「記憶に残らない人間は、きっと影が薄いんだよ」と断定される。  更に追い打ちをかけたがる人間は、 「そんな人間は、魂の質量が軽いんだよ」と、まるで哲学者のように言ってのける。  魂の質量?  果たしてそうだろうか?  それならそれでいいが、  その対象が、自分のつき合っていた相手だと、非常にやっかいなことになる。  何年か後に、自分の生活に関係してくることがある。  つき合っている時は、それほど意識していなかったが、別れてからおかしなことになる。  大変おかしなことに・・なってしまう。  ある時は、自分の身や家族をも危険にさらすことになる。  そして、あることに気づいてしまう。  一番、記憶に残っていなかった女性が、人生で最も存在感のある人間だったことを。 ただ、忘れようとして、記憶の底に封じ込めていただけに過ぎなかったことを。
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