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口止め
◆口止め
「雨、やみそうにないわねえ」
隣り向かいの女性が言った。若い女性同士の客だ。
ウェイトレス同士が、外の様子を見ながら、「停電になったら困るわね」と言っている。
後ろの女性は、本でも読んでいるのだろうか、時折、ページを捲る音が聞こえる。
近藤は、「これだけ雨に降られると、家に帰るのは、小降りになってからでないと、ずぶ濡れになるぜ」と、外の様子を伺いながら言った。
だが、俺はそんな外の様子よりも気になることがある。
あの時、三千子は死んではいなかったのか? 生き長らえていたっていうのか。
だが、近藤にそんな話をするわけにはいかない。遠まわしに探りを入れるだけだ。
「なあ、近藤・・」
「なんだ?」
「どうして、三千子は、俺のことを出すと、お前の誘いに乗ってきたんだ? それ、おかしくないか? 軽すぎる気がするんだが」
「俺もそう思うよ」と近藤は言った。「けれど、本当なんだ」
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