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16―ドーナツ夜道
高校指定のPコートはかわいくないし寒い。大きくて着させられているみたい。それでもきんとした朝と夜の寒さを乗り切るためには必要だ。制服もださいが、それ以上にPコートはださい。赤いチェックのマフラーを上品に巻き、黒い手袋で大人っぽくなるように心がけたが、やっぱりコートで台無しだ。一方で、下半身の防寒具はゼロ。生足、紺ソックスという真夏と変わらないスタイルだ。とは言っても、スカートが長い分、丸出しではないからましなのだが、健全とかまじめをアピールするなら、タイツを許可してほしい。タイツならあたたかくて、健康的ではないか。
「おはよう。寒いね」
「本当。顔と足、凍っちゃう。」
石くんは、紺のマフラーをおぼっちゃんぽく巻いていた。世の高校生が、かわいい制服、かわいいコートを着ていることを思うと、自分が野暮ったくて仕方なかった。それでも石くんの学校だと、あまり制服格差はないかもなと思って安心する。今日は、そんなことよりも二つのテストが恐ろしい。
「今日、やばい。予備校もテストある。最悪だ」
「予備校は、何時に終わるの?」
「9時40分かな」
学校のテストはそこそこだったが、予備校のテストはヤマが盛大にはずれ、次はクラス落ちするかもしれない。親に何か言われるだろうか。いや、先に先生だ。目をかけてくれていたのに、申し訳ない。いやでも、そもそもヤマをはっている時点で今のクラスはレベルが高かったのだ。もうひとつ下ぐらいがいいのだ。そんな言い訳をしながら予備校からの帰り、携帯を覗くと、石くんから、「腹減りすぎて、ドーナツ食ってる」というメールが入っていた。乗換駅にはドーナツ屋が併設しており、ちょうど今、目の前がその店だった。ガラス越しに店の中を覗くと、高校生が、チョコのついたドーナツをほおばっていた。店に入ると、入り口を見た彼は私に気づき、手を挙げて、私の方を見た。私は、彼の方へ行くと、3つもドーナツが置いてあった。先ほどのドロドロしたものが、一瞬で消えた。
「それ、何個め?」
私は、石くんの食べているチョコのドーナツを見て、聞いた。
「2個め」
一人で、5個も買ったのか。
「手伝ってくれ」
石くんは、私が来ることを見越していたのだろうか。私のためにいてくれたのだろうか。
「仕方ないな」
私は笑って、ドーナツを食べることにした。私が来なかったらどうするつもりだったのだろう。すでに10時を回っていた。こんな時間にドーナツなんて、絶対太ると思いながら、つぶやいた。
「うま!」
石くんは、だろ?という目で私を見て二人で夢中になって食べた。最後の黒糖のドーナツは、石くんが半分にして、大きい方を私にくれた。
10時半を回っていたが、店を出て駅を出た。補導されないか不安だったが、暗い補導を二人で歩いた。寒いはずなのに、全然寒くなかった。車なんか来ないのに、彼は車道側を歩いてくれた。一瞬止まって、彼がつぶやいた。
「…あのさ、24日、予定ある?一緒にでかけない?」
今月は猫も走るほど忙しい師走だ。
「今月の?」
「うん」
「うん……多分。空いてる」
顔が熱くなった。夜でよかった。暗くて、顔なんかよく見えないはずだが、下を向いていた。デートの誘いと受け取っていいのだろうか。私にとって、男の人と二人ででかける機会というのは、はじめてだった。それ以降、やたらと指に緊張を感じながら、、メールを打った。24日は映画を見に行くことになった。私は、四六時中、石くんのことを考えていた。
24日当日、映画館のある駅で待ち合わせした。石くんはいつになっても来なかった。携帯に何度連絡しても石くんは出なかったのだ。
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