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男性の手が背中を押す。もう一人が逆側から私の顔を覗き込む。
「謝礼しますから返してください」
怖くて。紙袋に手を伸ばしても返してはもらえず。
「遊ぼうよ、お姉さん」
どんって背中を押されてミュールの踵が段差に引っ掛かりよろける。
転ぶ―― 思った瞬間、両腕を正面から支えられた。
「大丈夫?」
さらさらと流れる髪。琥珀色の瞳。上質な生地のスーツを身に纏い、彼等よりずっと大人の男性が目の前に。
「なにやってるの、お前等」
切れ長の目がじろりと彼等を睨む。喧嘩になってしまうと不安で見ていたら、なんだか様子が違う。
「す、すみませんっ」
「やべ、桐谷さんだ」
彼等は紙袋を地面に放り出して、逃げるように走って行ってしまった。
何が起きたんだろう。怖かったから急に力が抜けてその場にしゃがみ込む。
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