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「一度だけ、貴方を抱き締めたい。いいでしょうか」
私じゃない。きっと本当に抱き締めたいのは翔なんだ。
「悲しくなりませんか……?」
「――癒やされますよ」
だけどけして満たされたりはしないのに。
「……はい」
ゆっくりと頷く。跪いた拓真が立ち上がり、そっと両腕を広げて私を包み込んだ。
拓真の黒髪が頬にふれてる。私の肩に顔を埋めてきつく抱き締める。複雑な想いが交錯するけれど、拓真に身を任せて目を閉じた。
「翔のそばにずっといて下さい。彼はいつも一人きりでしたから」
「――えぇ」
拓真にもできる事ならそうしてあげて欲しい。言葉をのみ込んで深く頷く。
抱き締められた腕がゆっくりと離れて、拓真はありがとうと小さく呟く。
「翔の為なら動きますよ。それはこれからも変わらない」
婚約パーティーで会いましょう。そう言い残してゲストルームを出て行った。
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