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開始からしばらく時間が過ぎた頃、遅れて入って来た人影に視線が釘付けになる。
江崎 陽斗―― まさか、彼が此処に来たのか。真っ直ぐに人混みを掻き分けて俺へと向かって来る。
俺の目の前に陽斗が立つ。朱莉の自宅マンション前で見かけた彼は疲れた様子だったが、今日はいつもと同じ、朗らかな微笑みで。
「婚約、おめでとうございます」
「江崎さん、ありがとう」
「必ず、彼女を幸せにしてあげて下さい」
見つめ合った彼からは潔い気持ち良さを感じる。
「君に言われなくても、そのつもりだ」
コートを手にしている。彼はまだ、会場に到着したばかりのようだ。
「実家の旅館から、戻って来たところです」
朱莉にはまだ会っていないという。今の彼なら心配はいらないだろう。
「向こうの人だかりの中にいるよ」
知人達に囲まれた朱莉に目を向けると、陽斗は不意に怪訝そうな表情を俺に向けた。
「考え過ぎならいいですが――」
やわらかな瞳が朱莉を見つめて不安な物言いをする。
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