義侠心

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 同じ女性を愛した―― 彼はおそらくまだ朱莉のことを。 「郁也、拓真は何処にいる?」 それでも彼女は渡せない。今日の婚約パーティーが終われば朱莉との新しい生活が始まる。 「拓真さんでしたら、さっき電話があって」 呼び出された様子で倶楽部の外に出て行った。郁也に聞かされて血の気が引く思いがした。  誰に呼び出された――? 拓真。 『一切の付き合いを断る』 『今は佐原さんが代表でしょう、桐谷さんがしゃしゃり出るのは認められませんな』 『彼には今後、関わらないで欲しい』    拓真が会社を引き受けたあの時、俺が判断を誤った。何故、拓真に会社を継がせたのか。継がせるなら全てを断ち切ってからにすべきだったんだ。  直談談判は決裂した。相手は素直には頷かなかった。まだ交渉する余地を残して俺は帰った。 「郁也、朱莉のそばを離れるな」 「えっ、翔さんは何処へ?」 主役が席を外すなんてと郁也が素っ頓狂な声を上げる。 「拓真を連れ戻す」 「ま、待って下さいよ。翔さん!?」
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