2303人が本棚に入れています
本棚に追加
同じ女性を愛した―― 彼はおそらくまだ朱莉のことを。
「郁也、拓真は何処にいる?」
それでも彼女は渡せない。今日の婚約パーティーが終われば朱莉との新しい生活が始まる。
「拓真さんでしたら、さっき電話があって」
呼び出された様子で倶楽部の外に出て行った。郁也に聞かされて血の気が引く思いがした。
誰に呼び出された――? 拓真。
『一切の付き合いを断る』
『今は佐原さんが代表でしょう、桐谷さんがしゃしゃり出るのは認められませんな』
『彼には今後、関わらないで欲しい』
拓真が会社を引き受けたあの時、俺が判断を誤った。何故、拓真に会社を継がせたのか。継がせるなら全てを断ち切ってからにすべきだったんだ。
直談談判は決裂した。相手は素直には頷かなかった。まだ交渉する余地を残して俺は帰った。
「郁也、朱莉のそばを離れるな」
「えっ、翔さんは何処へ?」
主役が席を外すなんてと郁也が素っ頓狂な声を上げる。
「拓真を連れ戻す」
「ま、待って下さいよ。翔さん!?」
最初のコメントを投稿しよう!