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郁也の制止を振り切る。横目に朱莉の姿を見ながら倶楽部を後にした。
入口付近には人影は無く、辺りを見回す。拓真の携帯に連絡を入れるが応答しない。
「翔……!」
倶楽部の先にある路地に出たところで、背後から朱莉に名前を呼ばれる。階段を駆け上がって来るせいでドレスの裾が乱れている。
「朱莉さん、戻って下さい」
上がって来る朱莉を後ろから郁也が追い掛けてくる。彼女は俺の前まで来てようやく立ち止まった。
「翔、何処へ行くの」
「心配はいらない。郁也と倶楽部にいるんだ」
「でも……」
不安を感じているのか、朱莉が戻ろうとしない。朱莉に声を掛けようとしたその時、路地の向こう側に黒ずくめの男性達の姿を目にした。
「郁也、朱莉を頼むな」
「待って、ねぇ、翔!」
「朱莉さん、駄目です。追わないで下さい!」
見失うわけにはいかず、郁也が朱莉を引き留める声を背に路地の先に向かう。飲食店が立ち並ぶ通りは人通りが多く、直ぐに人波に紛れてしまう可能性がある。
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