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危ない―― 至近距離で目に飛び込んだ光。
「桐谷さん……!!」
「翔――!」
拓真と陽斗の叫び声が、ほぼ同時に耳に響き渡る。
朱莉、また君を。俺は泣かせてしまうんだろうか。脳裏に一瞬過った後悔。
「やめ……ろ……!」
「え……?」
だが男は俺の直前で立ち尽くした。直後、震えた声を上げて陽斗の身体が崩れ落ちて行く。
「こ、こいつが……」
「いいからどけっ」
男はわなわなとへたり込む。刃物に慣れていない奴ならもしくは。
「江崎さん、しっかりしろ! 拓真、手を貸せ!」
彼の身体を両脇から支え立たせる。案の定、急所はそれて傷は深くは無い様に見える。
「歩けるか、車まで行くぞ。すぐに病院へ連れて行く」
「桐谷さん、あんたに…… 怪我が無くて…… よかったよ」
真っ青な顔をしながら陽斗が呟く。どんどん力を失くしていく身体を支えて歩く。
誰の為にこんな無茶をする。思いは言葉にならず、夜の闇に吸い込まれて消えた。
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