義侠心

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 聞こえてきた言葉にはっとして、傍らにいる朱莉を見上げる。彼女は最初にそうしていたように、シーツの上に置かれた俺の手の平に自分の手を重ね合わせた。 「朱莉、どうした?」 たった僅かな距離から翔が見ている。彼も朱莉の言葉に戸惑い、目を細めて黙って様子を伺っている。 「もう何度も…… 私、陽斗には……」 手を重ねたまま朱莉がしゃがみ込む。シーツに顔を伏せてしまうから、顔がよく見えない。ゆっくりと重ねられた手を離す。 「朱莉、顔を上げて。君は桐谷さんと帰るんだ」 「でも……っ」 小刻みに顔を横に振る。泣きそうな目がさらに刹那に動き、俺の心を揺さぶる。  何故―― 気が付かないの。その優しさが俺には辛いのに。 「此処に残るならそれなりの覚悟をして。できないよね、朱莉」 どんな思いで君を諦めたのか。きっと朱莉にはわからない。同情は不要なんだと君が気が付いて。 「怪我は軽い。大丈夫だから、もう帰るんだ」 精一杯に微笑んでみせる。少しでも彼女が感じる重荷を軽くしてあげたい。
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