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貴方はどうする――? このまま朱莉を俺の元に置いていけるのか。投げつけた視線に、翔は口元を微かに上げて笑い返した。
「江崎さん、君には感謝する。それなりの誠意を伝えたいとも思う」
あぁ、もういつもと変わらない表情に戻っている。何処から生まれるんだ、その自信と強さは。
「だが、彼女は連れて帰る。俺には大切な女性なんだ」
言うなり朱莉の前に跪く。驚いた目をする朱莉に、翔は片手を差し出す。あんなふうに微笑まれたら、もう敵うはずないだろ。
「行こう、朱莉」
「翔、……はい」
躊躇いがちに伸びた指先を翔がぐっと引き寄せる。朱莉を立たせると、乱れたコートの襟を正した。
「後ほどまた連絡を入れる。今日はありがとう、江崎さん」
悔しい程に落ち着き払っている。彼の魅せる笑みに僅かな迷いさえ感じられない。
「いつか、貴方に追いつきますよ」
彼の様に起業をする。そしていつか、愛しい人をこの手に抱こう。
二人が出て行った後、病室の窓からはぼんやりと美しい月が見えていた。
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