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「それ、絶対に失くすなよ」
「高価な品だっておっしゃってたわね」
写真でかまわないと言ったのだけれど、帰り際に衣装担当さんから持たされたヴェール。
「こういう雰囲気の生地、有りそう?」
「要望だもの。予算内で探して見るわ」
波が打つような光沢。やわらかな手触り。このヴェールを参考に羽衣をデザインして作り上げる。
私にとっては大抜擢な機会。
「もう直帰だな、飯行こうか」
お祝いも兼ねてと陽斗に言われて、そのまま二人で食事に向かった。
――― なのに。
何故、今、私は此処にいるのでしょう。
「翔さん、あの……っ」
巻き付いた腕が離れない。放っておくと額と頬にまたキスが降り掛かる。
「そろそろ、放して」
記憶を繋げる。翔に出逢ったのはもっと真夜中。
「また、啼いてみせてよ」
綺麗な顔に、一瞬悪戯な微笑みが浮かぶ。
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