淡海落日

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 市と三人の娘が無事に信長のもとに着いたという報告が届いた。  もう長政が現世でなすべきことは全て終わった。後は手に持った白刃を腹に突き立てるだけだった。  だが、その刃にポタリ、ポタリと雫が落ちる。 「うっ・・うう・・・」  長政は嗚咽する。 「うぅ・・・市、市よ・・・」  辛い思いをさせてしまった。兄と夫の板挟みにあった市がどれほど苦しみ、両者を救うためにどれほど悩んだのか、長政には手に取るようにわかった。そして今後市が背負わねばならない罪悪感の重さも。  だがそれでも生きていて欲しかった。だから寧ろあの告白は長政にとって僥倖(ぎょうこう)だった。なんとしても長政と共に自害するといって譲らない市を逃がす口実になったのだから。 「うう・・・ああっ・・・」  それでも心のどこかで最期の時は市の傍がいいという弱さがあった。  長政は今一度淡海を見遣る。  淡海は彼が生まれた時から共にあった。そして今、彼の死を看取るのも淡海なのだ。  長政は涙を拭い、今一度短刀を握りしめる。 「市よ、さらばじゃ」  鮮血が天守閣の床を濡らした。
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