66人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
犯人は誰。
事の起こり・・・と言っても、オレの何が彼女をこんなに怒らせているのか、ちっとも、さっぱり、まったく、わからない。
今日は給料日後の金曜日。部内の人間で飲み行こうぜ、と提案したのは同期の山本。
嫌いな奴も「行く」と盛り上がってるので、俺は遠慮したい。したいが、出来ないのが社会人のサガ。
こいつさえいなければなぁ・・・と、あえて隣に座ってくる社長令息の田之上幸成を心の底から拒否する。
入社して2年目、成人して4年目のオレより5才も年上の29才。
年下のオレが「早く大人になれよ」と呆れを持って進言したい、唯のおぼっちゃま。
僕は何をしても許される、と思ってるあたりかなりムカつくが社長令息という肩書きはそこいらの警察手帳より威力がある。
やっぱりなぁ、とため息が出るほど楽しくなかった飲み会は早々に切り上げるに限る、と2次会も断りタクシーを探す。
そう、ここまでは良かったんだ。
タクシーに乗って帰ってしまえば、このムカつくやつと2日は会わずに済む。
そう思いつつ、映画でも見るかなー 面白いテレビやってるかなーなんて呑気に考えていた。
止まったタクシーに乗り込んだオレを後ろからやつが押すまでは。
「ほらほら、後ろ詰まってるんだから早く奥にいって」
そう偉そうにオレを後部座席の奥に押し込んだのは、かの有名な社長令息で。
「はあ?何してんすか」
オレの言葉は無視して、運ちゃんに行き先を告げたおぼっちゃまは「送ってあげるよ」と心の底から気持ち悪い顔をして笑っていた。
でもこいつの告げた住所は、オレの住処の場所じゃないし、送られるなんて腹の底から迷惑だ。
暫くは我慢していたが、延々と続くおぼっちゃまの自慢話に辟易したオレは、タクシーを停めメーターどおりに料金を支払いとっとと降りた。
そう、降りたんだよ。オレの乗った席とは反対側のドアが開いて、おぼっちゃまが先に降りて、そして俺が降りる。
普通だよな?
で、送ると言ったのにとか君は無礼だとか、いや早く解放してくれよ、ってうんざりしていた時。
何かを見つけたおぼっちゃまが慌てた様子で再度タクシーに乗り、運ちゃんを急かしてるのを頭にクエスチョンマークを浮かべながら見ていた。
「幸成さんとタクシー?」という呟きが耳元で聞こえるまでは。
「うわああああ」
突然のささやき声に勢いよく振り向いて数歩後ずさる。
気配もなく忍び寄ったその声の主は、ボーイッシュで好みの顔をしていたが、恨みの籠った目をしていた。女の真っ赤に塗られた唇が笑みの形をとった時、その手に握られたナイフに気が付き、背筋が凍った。
1歩2歩と後退り、ある程度の距離が取れたところで踵を返し猛ダッシュ。
で、冒頭に戻る訳だが。
最初のコメントを投稿しよう!