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「な、何よこれ……?」
条件反射で受け取った薬を小早川は不思議そうに眺めていた。
「抑制剤です。今すぐ飲んでください」
「……どうして貴方が持ってるのよ?」
怪訝な顔付きで小早川が問うと、誉は無言で藪中の隣に並び立った。
「ところで、彼なんですけど……」
どこか挑戦的な笑みを浮かべた誉はしなやかな腕を藪中へと伸ばした。二本の腕はそのまま艶めかしく絡み合う。まるで小早川に見せつけるような行動だった。
「っ……誉さん?」
藪中は驚きを隠せなかった。基本的にシャイでクールな誉は、人前で体を密着させる行為を嫌がっていたはずなのに、と――。
「彼……藪中さんは私の番です。ですから、気安く触らないでくださいね」
しかも堂々と番関係を宣言したのだ。強い独占欲をのぞかせながら。
「つ、番って……じゃあ貴方は、オメガ……!?」
驚愕の表情をした小早川に誉は無言で頷く。そして藪中の腕を強く引いた。
「わかっていただけましたでしょうか? 今後、私の番を誘惑しないでくださいね。さぁ、藪中さん。帰りましょう」
「わわっ、誉さん!」
藪中の腕を取ったまま誉が扉の方へと足を進めた。
「ヤブ、また今度な!」
一部始終を見ていた瀬尾がニヤニヤと笑っていた。
おそらく詳しく話せと、近いうちに呼び出されるに違いない。誉に引っ張られながら、藪中は「また」と、瀬尾やメンバー達に片手を振った。
一方、小早川は悔しそうな顔をしていた。半ばヤケクソのように、誉から受け取った抑制剤をガリッと噛み飲むのが見えた。
空間を漂っていた不快なフェロモンはたちまち消え、藪中の嗅覚は悦んだようにして、誉の香りだけを吸い込んだ――。
後編につづく
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