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それでも誉はキッパリと続ける。
「何よりあなたの身が危険です。自衛する為に抑制剤があるのですから、ちゃんと発情周期を把握した上で薬を服用して下さい」
彼女の身を案じているのは本心のようで、誉の瞳には心配の色が滲んでいた。
「何なの貴方! 初対面の私にいきなりお説教? そんな事くらいわかってるわよ!」
尤もな意見を淡々と述べられたのが気に食わなかったのか、小早川は不機嫌を露にした。
「わかっているのなら今すぐ抑制剤を飲んでください」
「そんなもの、いちいち持ってないわよ」
「……何ですって?」
誉の片眉がピクリと跳ねた。
「だから、持ってないって言っているでしょ。私、抑制剤が嫌いなの」
開き直ったかのような小早川の態度に誉は大きな嘆息を漏らした。
「……信じられませんね。あなた、自己管理って言葉をご存知ですか?」
「ちょっと、人をバカにしないでよ! さっきから本当に失礼ね。そんなの、私の自由でしょ!?」
「失礼なのは、あなたです」
文句を吐き捨てる彼女に対し、誉は毅然と言い放った。
「失礼って……私は別に、貴方に何も失礼な事していないじゃない!」
小早川が大きな声で喰って掛かった。二人の口論をコート内にいるメンバー全員が注目していた。
「あ、あの~誉さん? あまり女性を怒らせないほうが……」
ヒステリーを起こした女ほど面倒なものはないと、藪中が誉へと耳打ちした。しかし誉はそれには答えずに、スラックスのポケットからプラケースに入った薬を取り出した。そしてそれを、半ば強引に小早川へと手渡した。
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