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「結構汗を掻きましたしね。確かに臭いかもしれません。早く洗い流してきます……誉さん?」
藪中の動きが止まる。誉が広い胸へと抱き付いたからであった。
「違うんです……貴方の汗は、その、全然臭くないんです」
寧ろ芳醇な香りだと、彼の逞しい胸の中で囁いた。
「誉さん……一体どうしたんですか?」
優しい声と一緒に、ぎゅうっと抱き締められた。
(ああ、言葉にしていいのだろうか)
葛藤しながらも、誉は心で痞えた想いを吐露する事に決めた。
「だって……臭いが残っているんです……」
「残ってる? 何がです?」
藪中の片手が頬に添えられた。その動きに合わせて頭を上げると、間近で視線がかち合った。若くて澄んだ瞳が、愛おしげに誉だけを見つめていた。
眼差しに促されるようにして、誉はポツポツと言葉を紡いだ。
「……さっきの、彼女のフェロモンが……藪中さんの体に纏わりついているんです。それがその、凄く嫌で……不愉快で……」
不器用ながらも気持ちを伝えた。
嫌で仕方がなかった。自分以外のオメガのフェロモンが彼に付着するなど許されない。だって彼は、この藪中路成は自分の番なのだ。
バスケットボールのドリブル音が響くコートに踏み入れようとした矢先だった。誉の目に飛び込んできたのは、ボールパスを受け取った藪中の姿だった。
相手チームのディフェンスを華麗にかわした藪中がジャンプシュートを決める。全てかスローに見えた。純粋に格好いい。瞳を奪われたほどだった。ユニフォーム姿も初めて見た。最高に似合っていた。彼以上の男など見た事がないと、誉が惚けていたところで、試合終了のタイムアラームが鳴った。
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