特別番外編(後編)※

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 ハッと気が付いた時には、藪中は友人である男と会話を交わしていた。  楽しそうだった。その笑顔はいつもと違って少し幼く見えた。普段は大人びていても、彼はまだ二十代前半だ。若く青年らしい姿は、ただ眩しい。誉は思わず目を細めた。 (声を掛けたいけど……)  踏み止まった。楽しいひと時に水を差してしまわないだろうかと、遠慮が駆けたのだ。誉は彼が出てくるのを待つ事に決めた。  しかし状況が変わる。扉の影に身を潜め様子を窺っていると、さっきの女性が藪中へと駆け寄ってきたというわけだ。彼女がオメガだとはすぐにわかった。微量ではあるが、フェロモンが漂っていたからだ。同じオメガだからこそ感じ取った香りだ。発情期が近いのだろう。藪中も匂いを感知したのか、険しい表情をしていた。  そんなオメガの彼女が、わざとらしく足を躓かせたのだ。振り返った藪中が、その小さな体を優しく受け止めた。藪中と密着した彼女の顔はたちまち蕩けた。  最上級のアルファ、藪中路成が欲しい……そんなオメガの本能が見て取れた。 (……私以外のオメガが、彼に触れるなんて)  黒い感情が腹の底からやってくる。  これは何だと心で自問しながらも、誉は藪中に付着した臭いを消すようにして抱擁を強めた。彼の汗ばんだ首筋や広い肩に頬擦りをしては、自分のフェロモンで他のオメガの香りを上書きしていった。すると――。 「誉さん、もしかして……ヤキモチ妬いちゃいました?」 「――っ!? ち、違います! ただ嫌ってだけで……っ」  弾くようにして顔を上げた。嫉妬という、みっともない感情を指摘されて思わず反論した。 「だから、それがヤキモチでしょう? 嬉しいです。それ……男としては、たまらないです」  ふふっと、笑われたかと思うと、頬に唇の感触を受けた。優しい口付けだった。
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