2382人が本棚に入れています
本棚に追加
***
スポーツクラブ三階の広々としたアリーナには、白と黒のユニフォームを着用した若い男たちの掛け声が響いていた。三対三、少人数でのバスケット対戦が行われていた。彼らが走り動くたびに、バスケットシューズが床を鳴らす。
「――ヤブ! パス!」
「オッケ! 決める」
仲間からボールを投げ渡された藪中が、相手チームのディフェンスを華麗にかわす。力強いドリブルでコートを駆けた。とにかく速い。白のユニフォームが、より一層、彼を鮮やかに見せた。
(いけるか……?)
走りながら横目でタイムを確認する。ゲーム終了まであと十秒を切っていた。得点は同点。ここで決めないと負けだ。視線の先にゴールを捕えた藪中が数メートル手前でジャンプし、手からボールを放つ。空を飛んだボールはリングにぶつかったあと、見事ネットに収まった。ジャンプシュートが決まったのだ。ここでタイム終了のアラームが鳴った。
「ナイッシュー、ヤブ!」
先程、ボールをパスした黒髪の男が藪中へと駆け寄ってきた。トップにパーマをかけ、前髪を立ち上げたヘアは清潔感もありながら、今風のスタイルを上手に取り入れていた。
「タイム、ギリギリだったけどな。決まってよかったよ」
額の汗を手の甲で拭った藪中が爽やかに微笑んだ。
「お前、相変わらず、ムカつくぐらいに格好いいわ。最後の最後で絶対決めるもんな」
男はニヒルに笑った。決して嫌味ではない。藪中路成というアルファ中のアルファを認めているからこそ出た台詞だろう。そんな彼は高校時代からの友人でアルファだ。名前を瀬尾といい、彼もまた財閥系の御曹司だ。家業は不動産業を主に経営している。
「瀬尾、今夜はこれで終わりだよな?」
前髪を掻き上げながら尋ねる。
「うん、そうだな。終わりにしようぜ。みんな結構いい汗かいたし」
頷いた瀬尾が他のメンバーへと視線を流す。藪中も同じく彼等へと瞳を送った。
最初のコメントを投稿しよう!