特別番外編(前編)

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 小早川が自分を好いているという噂は確かに聞いていたが、藪中は見向きもしなかった。  いいアルファを自分の物にしたい。注目を浴びたい。溺れるようにしてアルファと身体の関係を持ちたい。そんな小早川の本質を見抜いていたからだ。  瀬尾のニュアンス的には、今も彼女が藪中に恋心を抱いているとでも言いたいのだろう。 (有り得ない……俺は、誉さんしかいらない)  冗談はやめてくれと言わんばかりに、藪中は苦笑いを浮かべたあと、愛してやまない番を想った。それだけて心は喜びに満ちた。 「まぁ、いいや。それより、このあと行くだろ?」 「うーん……どうしようかな」  瀬尾の問い掛けに藪中は渋った。  プレイ後は皆で飲みに行くといったコースが決まりとなっているのだが、今日は乗り気になれなかったのだ。壁に掛けられた時計を確認すると、二十一時半を過ぎていた。 (誉さん、もう仕事終わったかな……)  脳裏に誉の姿が過った。ここのところ、ゆっくり会う時間を持てなかっただけに、気持ちは募るばかりだった。 「瀬尾、悪いけど俺、今日は帰るよ」  気持ちはすぐに決まった。会いに行く以外にないと、誘いを断った藪中がコートを去ろうとする。 「えっ、マジかよ!? ヤブには聞きたい事、山ほどあるのに!」  瀬尾が帰る事は認めないと言った風に食い付いてきた。 「聞きたい事?」  何をだと、尋ね返したところで、瀬尾はニヤリと口角を上げる。 「惚けるなよ。お前『番』を作ったんだって? 噂で聞いたぞ」 「そんなにも噂になってる? どこで聞いたんだよ」  特別隠しているつもりもないが、誉との事は、まだ大きく公表していない。  しかし、噂とはなんだと、藪中は疑問を投げかけた。
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