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第一話
「社会勉強ってモンが必要だろ?そろそろ俺たちにもさ」
フン、と鼻息荒く、友人のタカフミに言われたけれども、キッペイはうーん、と迷い顔だ。
「でも、カブキタウンには行くなってコウヘイに止められてるし」
「はあ?コウヘイに?」
タカフミは呆れた顔をした。
「お前さ、弟に言われっぱなしかよ?」
「そうじゃねえし!そうじゃないけど、コウヘイ、いろいろめんどくさいんだよ」
はああ、と深いため息をつくキッペイに、タカフミは少し首を傾げてニカッと悪戯っぽく笑った。
「んじゃ、コウヘイも一緒にカブキタウンに連れてこう!それならモンクねぇんじゃん?」
ええ?!とキッペイは目を白黒させる。
硬派なコウヘイをカブキタウンなんかに連れて行って大丈夫だろうか?
そもそも、一緒に行こうと誘って、素直に行くだろうか、あいつが。
カブキタウンは、この国最大の「遊郭」だ。
はるか昔、今のようにヒトが性別を問わず妊娠できるようになる前は、出産は女性だけのものだったらしい。
そして、女性を妊娠させることができるのは男性だった、と文献には綴られている。
ヒトは、男女が番になり、その子どもを交えて家族という形態をとり、生活していた、と。
もちろん生殖適齢期という時期は今と変わらずにあったけれども、若い男性なら病気でもない限りはほとんどのヒトが、番う相手の女性を妊娠させることができたという時代。
しかし、何が原因かはわからないけれども、年々ヒトはその生殖能力が極めて低くなり、絶滅の危機に瀕した。
そうして、今のように進化を遂げたのである。
ヒトの身体は、男女という性に関わらず、妊娠ができる構造になった。
それなのに。
肝心の、妊娠させることのできる生殖機能を持つ「雄」が全人口に対してほんの5%程度しかいなくなってしまったのだ。
そのため、「雄」の機能を持つヒトは、この国、いや世界でも絶対的に優遇され、王族もかくやのように傅かれる。
もちろん、それには大きな代償が伴うのだが。
彼らは、生殖可能な身体になった時点で、徴兵制度のように「徴用」される。
「徴用」された「雄」は、カブキタウンのような全国各地にある「遊郭」に集められ、そこにやってくる「客」に、いわゆる「種付け」をする。
ずっと昔、女性しか妊娠できなかった時代にもあったという遊郭は、客がそこにいる女性を選び、女性は選ばれたら断ることができなかったというが、もちろん今の遊郭にいる「雄」は違う。
やってくる「客」の中から気に入った相手を選ぶ権利は「雄」のほうにあるのだ。
「雄」は「客」を選び、そして自分の子種の値段も自分でつけることができる。
料金は楼主やら何やらに諸経費を引かれるなんてこともなく、全額自分のものになる。
ちなみに、遊郭にいる間の給料は「種付け」をした際に貰う料金だけではない。
固定給として相当な金額が毎月貰えるのだ。
だから、気に入った「客」がいなければ、もちろん強制的に客を取る必要も全くない。
但し。
国で定められた一定の数の子どもを設けるまで、遊郭を出ることは許されない。
それが、絶対的な優遇措置と引き換えに支払わなければならない代償なのだ。
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