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人生初の彼氏は、同じバイト先で二個年上の人だった。
特別に扱ってもらえることが嬉しくて、優しくしてもらえることが嬉しくて、それだけでドキドキして、告白されて断る理由なんてなかった。
はじめてのキスは、バイト帰りにバイクで送ってもらったとき。はじめてのセックスは、付き合って一ヶ月目の記念日。
けれど、半年くらいで別れてしまった。
思い出すこともできないような些細な喧嘩をきっかけに、簡単に壊れてしまった。
それからも何人かの男の人と付き合って、別れて、友達と遊んで笑って、そうして気づいたときには就職活動の真っ只中にいた。
とっていたら就職に有利と聞いていた英語と会計の資格のおかげか特段苦労することもなく一般企業からの内定をもらって、けれど配属先は英語も会計の知識も必要ない国内営業部の補佐。
最初は慣れない業務に戸惑ったものの、数ヵ月たった頃にはすべてがルーティンワークとなって力の入れ方も抜き方もわかってきて、最近は失敗して打ちひしがれることもなければ、成功して達成感を覚えることもない。
我ながら同窓会映えしない経歴にうんざりする。
他のみんなはもっとキラキラしているのだろうか。
そのときは墓穴を掘らないよう聞き役に徹しよう。
そんなことを考えていると、見慣れた赤いミニバンが遠くからこちらへ走ってくるのが見えた。
「おまたせー」
他に誰もいないからだろう。無造作に停められた車から母がひょっこりと顔を出した。
「ほら、早く乗りなさい」
「ありがとー。ただいま」
後部座席に旅行バッグを放り込み、私は助手席に乗り込む。
じんわりと汗ばんでいた肌が、冷房に冷やされた空気に一瞬縮み上がった。
「冷房効かせすぎじゃない?」
「そーお?」
半年以上会っていなかったというのに、母はそれ以上何も言うことなくさっさとハンドルをきる。
「お父さんがうるさくって。お昼はお素麺だから。あ、生姜買って帰るからね」
「はいはい」
「お歳暮にもらったのが食べきれなくて困ってたのよ。良かったわー帰ってきてくれて」
私、明後日の朝には帰るんだけれど。
でもそんなことを言っても今は聞き入れてもらえなさそうだし、取り敢えず相槌をうちつつ窓から外を眺めることにした。
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